役員に入った会社がなぜか次々と買収される男

次も、筆者がある企業C社の経済安全保障観点を含むリスク評価を実施した際に、偶然発覚した事案である。

C社の代表は中国人の趙氏(仮名)であるが、趙氏のこれまでの経歴を確認していたところ、不可解な動きが見えた。それは、趙氏が役員に就任した日本企業がことごとく買収されていたのだ。

暗い場所で握手をする2人
写真=iStock.com/Atstock Productions
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買収を行った主体は、日本企業やファンドが主であったが、資本関係や中国系役員の存在など中国と強い関係にあり、一部メディアから中国との関係を指摘されているファンドも存在した。買収を行った日本企業の中には、後述する趙氏のビジネスパートナーが関与するものもあった。

買収された企業は、主として中小企業でありながら、ニッチトップに近い特異な技術を有している企業も含まれた。ある企業は、「知人の紹介で知り合った趙氏は、非常に人当たりもよく優秀だったので役員として招聘したが、積極的に身売りを提案してきた。趙氏は日中で極めて広い人脈を持ち、買収案も文句ない内容だったので、趙氏の意向に沿って買収が進められた」と話す。なお、趙氏を紹介した「知人の男性」の妻は在日中国人である。

M&Aという「合法的」手段で技術が流出

調査を進めると、趙氏のビジネスパートナーで中国人男性の強氏(仮名)が浮上した。強氏は、日中双方で趙氏と同じ企業で役員を務めていた。また、中国の科学技術発展計画に関与する研究者でありながら、日本で複数の買収に関わっていたことが判明した。

後に周辺関係者への調査から、強氏が趙氏に強い影響力を持っており、強氏の指示のもと趙氏がビジネスを行っている状況が確認された。

このように、人的ネットワークを駆使し日本企業に入り込み、買収を斡旋している構図が存在する。これらの買収行為には一切の違法性はないが、合法的なM&Aを通じて、ニッチトップに近い特異な技術が流出されることには要注意である。

ちなみに、この趙氏が仲介する買収劇は、技術獲得に関するものだけではない。エンターテインメント業界における中国企業が関わった買収劇にも、趙氏が関与した例がある。エンターテインメントはプロパガンダツールとしても利用されているのは知られたところだ。