都民の無関心で利権構造は続く

もっとも、都知事選が茶番と言える点はほかにある。政策論争が存在せず、都民もそれを良しとしている点だ。

私は1995年の都知事選に出馬した。マッキンゼーを辞めて退職金代わりにチームをもらい、1年かけて都の政策を練り上げて臨んだが、『意地悪ばあさん』で有名なタレント候補の青島幸男氏に大差で敗れた。青島氏は世界都市博覧会開催など都のいくつかの政策について「ちゃぶ台をひっくり返す」と言っただけ。政策らしい政策はなかったが、都民はキャッチーなフレーズと抜群の知名度で選挙を戦う青島氏を選んだ。政策論争は有権者に響かない現実を目の当たりにして私には出番がないと察した。『大前研一敗戦記』(文藝春秋)を出版したのは私なりの政治から足を洗う“辞世の句”であった。

都民の政策への無関心さは相変わらずだ。小池都知事は前回の都知事選で、待機児童、介護離職、残業、都道電柱、満員電車、多摩格差、ペット殺処分、これら「7つのゼロ」を公約に掲げた。

このうちペット殺処分はゼロになったと主張するが、都独自の基準によるもので、国の基準に照らすと殺処分はゼロになっていない。また、満員電車はコロナで一時的に解消したが、行政の手柄ではない。もちろん二階建て電車は作っていない。その他のゼロは言わずもがな、むしろ公約達成がゼロだ。

それでも再選されるのは、都民が政策に関心がないからだろう。政策が伴わなくても、顔の売れた候補者の、聞こえのいいフレーズが支持される。ただ、都民が政策に関心が低いままでいられるのは、都政に大きな問題がなかったからかもしれない。

都政のコアな部分は行政のプロたちが回し、トップが誰であろうときちんと動き続けている。都知事を13年半務めた石原慎太郎氏は、たまにしか都庁に登庁しなかった。それでも滞りなく動くくらいに都庁の職員は優秀だった。

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では、都庁職員がコア部分を回しているあいだ、都知事や都議会議員など政治家たちは何をしていたのか。実は都政の外縁部は、ズブッとしていて魑魅魍魎ちみもうりょうがうごめいている。そこは利権の巣窟であり、政治家は口利きに奔走している。

都知事選に立候補したとき、私の元に都職員からさまざまなタレコミがあった。たとえば都の施設には自動販売機の利権が都議ごとに割り当てられ、その都議と関係が深い自販機ベンダーが自販機を設置しキックバックを内密に贈っていた。義憤に駆られた職員が、そのリストを私に送ってくれた。

東京都現代美術館に至っては、展示区画ごとに利権があり、都議とグルの画商が言い値で絵画を販売。たとえばロイ・リキテンスタインの「ヘアリボンの少女」は6億円し、さすがにこれは問題になり、都議会でも追及された。

これらは私が都知事選に出た当時の話だが、利権に群がる構造は変わらない。石原都政で設立された新銀行東京は、健全な中小企業経営に必要な金融機関だったが、都議が自分の選挙区から返済能力のない中小企業経営者を連れてきて、彼らに口利きするケースが相次いだ。結果、焦げ付きが積み重なり、経営再建のために都民の税金が追加投入される羽目になった。

築地市場の豊洲移転にも利権があった。小池都知事は石原元都知事や浜渦武生元副知事を都議会に呼び出して追及の構えを見せたが、後にあっさりと豊洲移転を認めた。追及されていた汚染は、改善されたのかどうか、明言はなし。小池都知事も築地再開発利権に取り込まれたのかもしれない。

今回の都知事選で争点の一つになった明治神宮外苑再開発も、同じデベロッパーが絡み、小池都知事主導ではないが、結局、再選で利権構造は温存される。