わたしの運命を変えた出来事
わたしは最初の著作『スタンフォードの脳外科医が教わった人生の扉を開く最強のマジック』(プレジデント社)のなかで、人生を永遠に変えることになった子ども時代の運命的な出会いについて書いている。
わたしはカリフォルニア州の砂漠で生まれ育った。家は貧しく、家庭環境も悲惨と言うほかなかった。そのためわたしは、自分は何かの呪いをかけられていて、ただ状況に振り回されながら小さな人生を送るしかないと信じていた。
しかし、ある夏の日のことだ。両親がケンカをはじめたので、わたしは外に飛び出した。自転車に乗り、思い切りペダルを漕いだ。ただ家からできるだけ遠くに離れたい一心だった。そして、砂で口のなかがジャリジャリになった状態でたまたま見つけたマジック・ショップに入ると、わたしの人生は一変することになる。
わたしはそこで、ルースという名の親切な女性に会った。彼女は青いムームーを着て、わたしが入ってくると、それまで読んでいた本から目を上げた。鼻の上にのっかった眼鏡には、首にかけるチェーンがついている。ルースは輝くような笑顔をわたしに向けた。その笑顔を見て、わたしはなんだかほっとしたのを覚えている。彼女はわたしを安心させてくれた。
話を聞いたところ、それは彼女の息子の店であり、彼女自身はマジックについて何も知らないという。20分ほどおしゃべりをしたところで、ルースはこう言った――夏の間、6週間はこの町にいるので、あなたが毎日店に来たら、ほかのマジックを教えてあげる、と。それからの6週間、わたしが店を訪ねると、ルースはチョコチップクッキーを好きなだけ食べさせてくれた。そして、彼女が「本当のマジック」と呼んでいるものを教えてくれた。それは、身体をリラックスさせたり、心を落ち着かせたり、心を開いたり、自分の意図を明確にして視覚化したりするテクニックだ。
脳の配線を変える
店の奥の部屋で、毛足の長い茶色のカーペットの上に置かれた金属の椅子に座り、ルースと2人ですごした時間は、わたしが神経可塑性を実際に体験した最初の瞬間だった。彼女の優しさと気づかいが、わたしの脳の配線を変えたのだ。
最初は怖がり、ためらっていたわたしを、ルースは優しく導いてくれた。自分の思考から十分に距離をとれば、思考の本当の姿が見えるようになると彼女は教えてくれた。思考とは、文字通りただの思考でしかない。頭のなかに現れては消えていくだけだ。
わたしも最初のうちは、頭のなかで怖い声が聞こえたり、大惨事のイメージがわいたりしたら、恐怖を感じるか、あるいは攻撃的に反応していたが、それでもだんだんと、ネガティブな思考はポジティブな思考、自己肯定感が高まる思考へと置き換えられることを学んでいった。「お前のような人間は何者にもなれない」という声を手放し、代わりに理想の人生を送っている自分、なりたい自分の声を手に入れることは可能なのだ。