心が軽くなる生き方は何か。禅僧の枡野俊明さんは「私が住職を務める建功寺にいらした老夫婦は、10 年間で5600枚もの雑巾を縫い上げ、寺社に奉納していたが、あるお寺で対応した僧侶に横柄な態度を取られた。一瞬頭に血がのぼったものの、『させていただいている』と思い直したら、気持ちが楽になったそうだ。同じことをするのでも、『自分はさせていただいているんだ』と思うと、一つひとつの仕事が丁寧になり、笑顔でできるようになる」という――。

※本稿は、枡野俊明『迷ったら、ゆずってみるとうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。

タオルを雑巾型に縫う女性
写真=iStock.com/SteveLuker
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感謝の言葉を連発すればいいわけではない

「させていただく」と考える――「してあげている」と思うからイライラする

人に何かやってもらったとき、「ありがとう」と言っていますか?

「当然です。ビジネスでも日常生活でも感謝の気持ちを言葉に出して伝えるのは、人間関係の基本です」

多くの人は、そのように答えるでしょう。そして、実際に「ありがとう」と言っていることでしょう。

数十年前なら、書類整理をしてくれた部下に「ありがとう」も言わない上司は数多くいました。今の若手社員なら、そんな上司の下ではやっていられないと転職を考えるかもしれません。当時のことを思うと、良い方向への時代の変化を感じます。

言葉には力があります。「ありがとう」、「おかげさま」などの感謝の言葉は、言われるほうはもちろん、言った自分もポジティブな気持ちになります。

では、感謝の言葉をひっきりなしに連発していればいいのか――。

それは違います。

その「ありがとう」、「おかげさま」の根底に、自分ひとりの力で生きているのではないという気持ちはあるでしょうか。

「ありがとう」、「おかげさま」は、ともに仏教語です。

「ありがとう」は、『法句経ほっくきょう』の「人間に生まるること難し やがて死すべきものの いま生命いのちあるは有難し」という一節が由来です。「人として生まれることはいかに有り難いことか、そのことに感謝して生きよう」という意味で、感謝をあらわす言葉として使われるようになりました。

「おかげさま」は、「お陰様」と書きます。「陰」とは、神仏やご先祖さまのことです。目には見えないが、陰に隠れている方々のご加護のもとで、私たちは生かされています。そのことへの感謝の気持ちが込められている言葉です。

ですから、口先だけの感謝の言葉ではなく、まわりの人たちの支えがあって、今の自分があるという思いを込めて使いたいものです。