我欲ではなく、利他の心で仕事に取り組むにはどうすればいいか。禅僧の枡野俊明さんは「人間の欲に翻弄されないためには、他人のことを考えずに自分の利益ばかりを求める『我欲』ではなく、人の背中を押し、良い方向への推進力となる『意欲』を持つことで前向きに生きられる。京セラやKDDIの創業者である稲盛和夫さんは、新しい事業やプロジェクトを始めるとき、何度も何度も『自分自身や会社の利益だけでやろうとしていないか』『皆に喜んでもらえるものだろうか』などと時間をかけて自問自答し、『よし、大丈夫だ』と思ったら、圧倒されるほどのパワーで事業を推し進めた」という――。

※本稿は、枡野俊明『迷ったら、ゆずってみるとうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。

立っているビジネスマンの前のコンクリートの壁に鮮やかなクエスチョンマーク
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やりたい仕事がかち合ったら「ゆずる」べきか

ゆずると気持ちが明るくなる――禅が教える「共にきれいになる生き方」

エレベーターや駅の自動改札、狭い道などでタイミングが同じになって、人とかち合ってしまい、どうしようかと迷うことがよくあるものです。

そうしたとき、私は「お先にどうぞ」と先をゆずるようにしています。すると、相手はニッコリしてお礼の会釈をしてくれ、ゆずった自分も気持ちよくなります。

ところが、それが当然のように目を合わさずに無言で先を行く人もいます。そんなときは、「ああ、残念だな」という気持ちにもなります。

あるいは電車やバスで、席をゆずってもらうのが当たり前のようにお礼のひと言もなく座ってしまう人もいます。そんな場合も気持ちよいものではありません。

それでも、私は「ゆずる」気持ちを大切にしています。お互いにニッコリ笑顔で心地よく過ごせるように、ゆずり合いの気持ちをいつも持っていたいからです。

気持ちよくゆずることができた日は、「今日は調子がいいな」と明るい気分で過ごせます。

ビジネスシーンにおいても、「かち合う」という場面はよくあります。

所属部署に魅力的な仕事が舞い込みました。リーダーの「やりたい者はいるか?」の声に、やる気のある人なら皆手を挙げるでしょう。もし自分が担当して成功すれば、それは大きな評価につながるのはもちろん、自身のキャリアアップにもなります。

しかし、担当できるのはひとりです。リーダーは誰を選ぶのか。同僚に担当をゆずると、自ら負けを認めた気持ちになるかもしれません。かといって、「私が、私が……」と人を押しのけてまで自己主張するのも憚られます。

こんなときにも、ゆずり合いの気持ちを持つべきなのでしょうか――。