古くから知られていた「願望実現の法則」

マニフェステーションには数千年の歴史がある。現代のわたしたちがイメージするマニフェステーションは、主にヒンドゥー教の聖典「ヴェーダ」に書かれている内容が基になっている。

たとえば、「ヴェーダ」に属する「ムンダカ・ウパニシャッド」には、「真実を理解している者であれば、その精神にどんな世界を思い描こうとも、どんな願いを胸に抱こうとも、その者はその世界を手に入れ、その願いをかなえるだろう」(3・1・10)と書かれている。またブッダも、「僧侶がその思考によって何かを追い求めれば、その何かは僧侶の意識の傾向となる」と述べ、思考には現実の世界を形づくる力があることに触れている。

19世紀に入ると、「ニューソート」と呼ばれるスピリチュアルの運動が起こった。ニューソートは、錬金術、超絶主義、キリスト教の福音、ヒンドゥー教など、さまざまな宗教や哲学の教えを融合した思想であり、ここから「引き寄せの法則」が生まれている。

祈るインドの女性
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「引き寄せの法則」が招いた誤解

引き寄せの法則の基本的な考えは、「思考が体験する現実を決める」というものだ。ポジティブな思考はポジティブな体験を引き寄せ、ネガティブな思考はネガティブな体験を引き寄せる。

現在、欧米でよく知られているマニフェステーション関連の思想は、ナポレオン・ヒルの『思考は現実化する』(きこ書房)から、ノーマン・ヴィンセント・ピールの『積極的考え方の力』(ダイヤモンド社)まで、たいていこのニューソートが基盤にある。なかでもとくに有名なのは、ロンダ・バーンの『ザ・シークレット』(KADOKAWA)だろう。

しかし、引き寄せの法則という考え方からは、マニフェステーションに対する不幸な誤解がいくつも生まれてきた。第一に、引き寄せの法則は物質主義と強く結びついている。

その結果、多くの人が、お金を引き寄せ、立派なマイホームを引き寄せ、高級車を引き寄せれば幸せになれると信じてしまった。

そのほかにも、ただ願うだけでいいという勘違いも生み出してきた。人生を変えるには、ただ理想の人生を夢想するだけでなく、自分の行動や態度も変えなければならない。

そしておそらくもっとも有害なものは、つらく苦しい現実もすべて自分の思考から生まれたという誤解を広めてしまったことだろう。