総務省では、これまでにも次官級の総務審議官を務めた旧郵政省出身の「技官」は数人いたが、いずれも国際担当で、旧郵政省の祖業である郵政・通信を担当した「技官」は竹内氏が初めて。しかも、通例1年の在任期間が、2年どころか、3年という異例の長期に及んだ。

その間、電波オークションの導入、携帯電話のプラチナバンドの楽天モバイルへの割り当て、NHKのネット事業の必須業務化、NTTの国際競争力強化など、長年の懸案を陣頭で指揮を取って次々に処理し、実績を上げてきた。

なかでも、難物とされる首相官邸や自民党の有力政治家との調整に奔走し、巧みに落としどころを探ってきたという。

人となりは、温厚で、飾らず、腰も低く、親しみやすい。「技官」というと専門分野にとらわれやすいイメージがあるが、幅広い知見と粘り強い交渉力は「事務官」に優るとも劣らないといわれる。

そんなところが、霞が関の幹部人事を司る内閣人事局長を兼任する栗生俊一官房副長官(事務)はじめ首相官邸の信頼を得られたようだ。

霞が関は「事務官」優位の世界

あらためて、国家公務員のキャリア官僚(総合職)について整理してみる。

その身分は「事務官」と「技官」に大別(ほかに教官がある)され、両者は国家公務員採用試験を受ける時点で選ぶ職種で決まる。基本的に、「事務官」は、行政、法律、経済など。「技官」は、土木、機械、建築など。最初の選択で、退官するまでの昇進するルートやポストがほぼ自動的に決まる。

中央省庁の事務次官ポストは、国土交通省を除けば、事実上、「事務官」で占められている。局長級ポストでさえ「技官」が就くのは、総務省のほか、厚生労働省、農林水産省など、レアケースだ。つまり、霞が関は、圧倒的に「事務官」優位の世界なのである。ひと口にキャリア官僚といっても、その内実は、ある種の歴然とした格差が存在している。

そんな中で、マンモス官庁である総務省の事務次官に「技官」が就任したのだから、霞が関官僚の驚きは半端ではなかった。なにしろ、キャリア官僚にとって、人事は最大の関心事なのだから。

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主要省庁の幹部人事の基本的なシステムは、毎年20人程度採用される「事務官」(いわゆる幹部候補生)=同期入省組の中から、順々に淘汰されて、局長ポストに数人、事務次官ポストに1人が残っていく(もちろん、例外はあり)。

だから、主要ポストに「技官」が就けば、「事務官」の座る幹部ポストが一つ減るわけで、ポスト争いにいそしむ「事務官」にとっては一大事なのである。