介護事業者の倒産が相次いでいる。東京商工リサーチの調査によると、2024年1月~4月の倒産件数は同期間の過去最多だったという。文筆家の御田寺圭さんは「日本はデフレ不況期という経済状況でのマンパワーの規模を基準にして、高齢者福祉の基本的な制度設計をしてしまった。それが今、成り立たなくなっているのだ」という――。
シニア女性と車椅子の介護者
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1月~4月の介護事業者の倒産は過去最多を記録

凄まじい勢いで進行する少子化と高齢化のうねりのなか、昨今ますます加速するインフレと人手不足の影響で介護事業者の倒産が相次いでいる。東京商工リサーチの「2024年1-4月『老人福祉・介護事業』の倒産調査」によれば、2024年1月~4月における介護事業者の倒産は、同期間の過去最多を記録した。なんとか経営を続けているところでも離職者が増加しており、慢性的な採用難に苦しんでいる。

もっとも、これまでの時代ならかれらは「その施設」を辞めるだけで業界そのものを辞めることはなかった。しばらくすればまた別の施設に、同じ職種で入職するのである。

介護業界は、バブル崩壊後の不況によって就職難が続いた「就職氷河期」と呼ばれた厳しい雇用情勢でも求人倍率はいつだって高い水準のままだった。言い換えればこの業界はある種「デフレの申し子」だったのである。

しかしながらその反面、介護業界は介護報酬によって事業者(ひいてはその事業者で働く職員)の収入がほとんど決まってしまうため、インフレに弱いという性質があった。いまのように業界の外を見れば勢いよく賃金水準は上がっていたとしても、自分たちの業界は物価にあわせてダイナミックに給与を上げるといった経営判断が難しいのだ。サービスの質にかかわらず、事業者が受け取れる報酬があらかじめ決まっているので、創意工夫で生産性を高めるという余地が小さいから無理もないのだが。

よりよい賃金の業界へ人が流れていく

「失われた30年」と呼ばれるデフレと人余りをともなう景気低迷の暴風をしのぐために、「とりあえず手に職をつけよう」と養成校に通って介護・福祉系の業界に入った人びとは少なくなかったのだが、かれらはいまインフレと人手不足の時代へと世の中の趨勢が転じ、次々に離職している。ただし今回は「その施設」を辞めて次のところに向かったわけではない。よりよい待遇や賃金を求めて「業界そのもの」から離れ、二度と戻るつもりはない。

加速する高齢化とインフレと人手不足によって、介護需要に対して人的リソースの供給がまったく追いつかない「介護崩壊」がいよいよ現実味を帯びはじめている。求人倍率は急激に上昇していて、たとえばヘルパーでは2022年度の求人倍率がすでに10を超えている(朝日新聞デジタル「求人倍率15倍、「介護崩壊」の懸念に現実味 ヘルパーの高年齢化も」2023年12月4日)。これは空前の売り手市場であると好意的に記述することもできるが、ここまで来ると「だれもやりたがっていない仕事だ」と記述するほうが適切だ。