「学校活動の一環にする」のは難しいことではない

いまはまだ、すでに業界内いる人材に対して介護業界から去ることをなんとか踏みとどまってもらえるよう、あの手この手を尽くして働きかけようとしている段階だ。だが、それでは根本的に解決不可能だと政府が悟れば、より強制力をともなう形で高齢者の「QOL(もっと大げさにいえば生存権)」を守るための施策を講じる可能性は十分にある。

名目上「ボランティア」であれば、経済生産性とか事業採算性といった観点を気にする必要はない。初期コストもきわめて低い。行政が社会福祉協議会と連携して地元の中学校や高校に働きかけ、学校活動の一環にしてしまえばよいだけだ。それ自体はそこまで難しい作業ではない。皆さんも中高生の時分に覚えがあるかもしれないが、地域のごみ捨てや河川の清掃などが「ボランティア」という建前で学校行事に組み込まれ、実質的に強制参加となっている学校などすでに世の中には数えきれないほど存在しているからだ。

学校の廊下を歩く生徒たち
写真=iStock.com/urbancow
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なにかしら手を打たなければならないのが現実だ

「いやいや、さすがに『徴介制』なんて、いくら政府でもそこまで踏み込むことはありえないだろう」――という意見はあるかもしれないが、私は全然「ありえる」と考えている。というか「ありえる」かどうかをあげつらう以前の問題だ。財政的・人員的逼迫ひっぱく状況はますます深刻化し、一方で2040~2050年ごろには認知症高齢者がいよいよ1000万人に到達することが推測されている。ますます少なくなっていく人員でますます多くなっていくニーズをこれまで通りの水準で満たそうとすればするほど、そこで働く人の環境や処遇はさらに劣悪なものになっていく。なにかしら手を打たなければならないのだ。

提供できるサービスの水準を引き下げたり、あるいは大幅な利用者負担の増大を行う政治的決断がなされないまま現状維持を選択すれば、確実に崩壊は避けられない。政府が痛みをともなう決断による政治的リスクをおそれて問題を放置し、全国各地の努力でどうにか介護リソースを工面させようとすれば、望むと望まざるとにかかわらず直接・間接を問わずなんらかの強制力をともなう「動員」を導入せざるを得なくなる。