「事務官優遇」「横ならび」の不文律打破
ここからは、霞が関のトップ官僚の名前が次々に出てくる。一般への知名度はきわめて低くなじみがないため、興味は薄いかもしれないが、日本丸を実質的に動かしている面々なので、頭の片隅にでも留めていただければありがたい。
今夏の主要官庁の事務次官人事を入省年次でみると、財務省の新川浩嗣氏は87年(61歳)、厚生労働省の伊原和人氏も87年(59歳)、農林水産省の渡辺毅氏は88年(60歳)で、85年の竹内氏は突出して古い。ちなみに、上記3氏は、いずれも「東大卒」だ。
従来の人事慣行でいえば、竹内氏は、「技官」であるうえ、入省年次的にも、年齢的にも、退官してもおかしくなかった。
総務省の場合、消防庁長官から総務審議官に転じた原邦彰氏は、88年旧自治省出身入省の59歳。やはり「東大卒」で、かねてから事務次官の有力候補とされており、「横ならび」を気にする霞が関だけに、一気に事務次官に起用という見方もあった。
ところが、直近の事務次官の出身官庁は、旧自治省、旧総務庁、旧自治省と続き、今回も旧自治省からとなると、統合官庁としての人事バランスが著しく損なわれかねないという懸念があった。
旧郵政省出身の事務次官は、2019年に任期途中で日本郵政グループへの情報漏洩問題で辞職した鈴木茂樹氏が最後。しかも、「総務省接待事件」の影響もあって、旧郵政人脈の「事務官」で直ちに事務次官を狙えそうな有力候補が見当たらなかったともいわれる(このあたりの事情は後述する)。
これまで「女性事務次官」は2人いたが…
もろもろの事情が交錯し、「事務官優遇」「横ならび」という霞が関の不文律を打ち破った異例の抜擢人事が発令されたのである。
すでに、女性の事務次官は、旧労働省の松原亘子氏(1997年就任)と、厚生労働省の村木厚子氏(2013年就任)の2人が誕生している。村木氏は、郵便不正事件で冤罪をかけられた問題が記憶に新しい。
それだけに、事実上、初めての「技官」の事務次官起用は特筆すべきできごとだろう。専門分野に特化し「縁の下の力持ち」のポジションに就いてきた「技官」にとって、朗報となったことは間違いない。
「びっくり」で始まった総務省の事務次官人事だが、旧郵政省出身のOBをはじめ総務省OBは、おおむね好意的に受け止めているようだ。
一躍脚光を浴びた竹内氏は「めぐり合わせではあるが、自然体でしっかりと職責を果たしていきたい」と淡々と語っている。
主要官僚が軒並み消えた「総務省幹部接待事件」
「技官」の事務次官が誕生した背景に浮かぶのが、2021年2月に発覚した「衛星放送会社・東北新社による総務省幹部接待事件」だ。
菅義偉首相(当時)の長男・菅正剛氏をはじめとする東北新社の役員が、長年にわたって監督官庁である総務省の幹部を接待していた問題である(参考:本サイト2021年3月1日付「菅首相の長男との"仲間意識"」総務省幹部の規律が緩みきっていた根本原因」)。