人材確保・流出の危機…企業の緊急対応策はインセンティブと手当

すでに人材確保や流出に危機感を抱く企業では転勤制度の廃止を含む見直しを行っている。2020年7月にカルビーは業務に支障がないと上長が認めた場合、単身赴任者が家族の居住地に戻ることができる「単身赴任の解除」を打ち出し、10月にはJTBも転居を伴う転勤が命じられても本人の希望と会社の承認を前提に転居せずにテレワーク勤務ができる「ふるさとワーク」を導入している。

さらに大きな話題となったのはNTTグループの「転勤・単身赴任」を原則廃止だ。テレワーク可能な環境を整備し、社員の居住地制限を撤廃し、地方に住みながら本社業務が可能になる制度導入の方針を打ち出している。

SOMPOひまわり生命は、出産、育児、介護、本人または家族の病気などで転居を伴う転勤が一時的にできない場合、免除する「転居転勤免除制度」を導入。使用回数の上限は2回(40歳以上の社員は1回)とする。

また、カゴメも家庭の事情で現在の勤務地から転勤したくない場合、一定期間勤務地を固定する「転勤回避制度」や、本人の希望する勤務地ではない場合に希望勤務地へ転勤できる「配偶者帯同転勤制度」を設けている。

できるだけ本人の意向に沿うために、テレワークなどを活用し、人材の確保と定着に努めている。しかし業界によっては組織運営上、転勤が不可避の企業もある。

小売業の人事担当者は「欠員が発生した場合の要員の補充のために転勤が必要だ。人の異動による新陳代謝によって組織の活性化も図れるほか、転勤による店舗の異動によって広い視野を持った人材の育成にもつながる。テレワークが増加しているとはいってもフルリモートでできる職種は限られる。対面や現場でしかできない職種もあり、転居をともなうも転勤は避けられない」と語る。

ではどうするのか。

転勤を嫌う人をその気にさせるためのインセンティブとして「報酬」を上乗せする企業も登場している。

写真=iStock.com/Yusuke Ide
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全国各地に支店を配置し、転勤が常態化している銀行や生保が近年、手当の増額に乗り出している。

三菱UFJ信託銀行は23年10月から引っ越しを伴う転勤者に一律50万円を支給している。また、みずほ銀行は、今年4月から社員が家族帯同で転勤する場合、一時金を15万円から30万円に増額。単身赴任者も8万円から24万円、独身者も8万円から15万円にそれぞれ増額。そのほかに転勤手当も増額している。

明治安田生命も今年4月から転居を伴う異動に50万円支給するほか、単身赴任手当を月額3万6000円から5万円に引き上げ、住宅補助も拡充している。

前出のエン・ジャパンの調査では、転勤の辞令が出た場合、条件付きで承諾する人の割合が42%。最も多い条件は「家賃補助や手当が出る(72%)だった。はたして銀行や生保の手当などの増額が功を奏するのか。ただし、銀行や生保のように報酬を出せない企業も多い。今後の方向性としては、転勤に関しては本人の同意を得ることはもちろん、転勤自体を減らしていくことになるだろう。

少し古い調査になるが、中央大学大学院戦略経営研究科ワーク・ライフ・バランス&多様性推進・研究プロジェクトが2016年11月29日に提言を発表している。

企業が転勤の目的の一つに掲げている「人材育成」の個人調査によると「転勤以外の異動に比べて転勤経験の方が能力開発にプラスになった」という割合は38.5%だった。一方「転勤経験と他の異動では能力開発面でのプラスの程度に違いはない」が35.0%、「転勤経験でない他の異動の方が能力開発面でプラスになった」が5.2%もあり、計40.2%の個人が転勤の育成上の効果を疑問視している実態もある。

最近はキャリア自律が叫ばれ、めざすキャリアを自ら描き、主体的に勝ち取るものとされ、企業はその支援をすることが役割とされている。会社主導の転勤という人材育成・配置そのものが、もはや時代と合わなくなっているように思う。

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