研修医2人が相談しなかったのは、個人の問題ではない

一方で「かっこよく、スマートに」患者さんをさばくべく、知ったかぶり、独善的に患者さんの訴えを否定する研修医は「要注意の医師」として、その後の指導方略を再考することになる。

ただ最近の研修医には、こうした医師はあまり見かけない。というのは医学生時代に医療面接と技能の実技試験が行われており、臨床実習に進むにはこれに合格する必要があるからだ。医師としての基本的な資質に欠ける者は、ここでふるい落とされてしまうのである。

つまり基本的な資質を有している研修医であれば、1年診療したくらいでは、自信過剰で横柄な「お医者様」になってしまうことは、そう多くないというのが、私の経験を通じた実感である。むしろ、じっさいに外来診療をさせてみると、判断に迷った場合は一人で抱え込まずに私に臆せず指示を仰いでくる。

今回、上級医に相談しなかったとされている研修医は、はたしてどうだったのか。私には知るすべもないが、2人もの研修医が続けて相談しなかったという事実を考えると、やはり研修医のプロフェッショナリズムに問題があったというよりは、病院のシステムや組織風土の問題であったと考えるほうが自然だ。

そこで日赤名古屋第二病院の研修医にたいする姿勢を公式サイトで確認してみた。

現場は上級医に相談できる体制だったのか

すると「病院全体で救急医療の体制を整え、屋根瓦式の教育で研修医の指導を行うことで、すべての研修医が数多くの症例に対して段階的に、安心して対応できるように教育システムが整えられています」そして「管理当直者(診療科部長クラスの中堅以上の医師)が1名、3年目以上の医師が2名、さらに各診療科には院内待機の医師が控えており、安心して当直に臨むことが出来ます」とあった。

これは研修医にとっては非常に安心できる体制だ。研修医を受け入れていながら「放し飼い」にしている病院もあるなかで、むしろ優れているほうだろう。

だがいくら優れた体制があっても、じっさい運用するのは現場の人間だ。研修医を直接指導する上級医の側に、研修医を「学習者」ととらえて教育する意識がなければ、研修は成立し得ない。研修医をたんなる「労働力」として扱う上級医がいる医療機関では、本事案と同じように、上級医に相談せずに(できずに)患者を帰宅させることが日常的におこなわれてしまうだろう。

もっとも先述したように、研修医教育は時間と手間がかかる作業の繰り返しだ。ただでさえ多忙な現場の医師にとっては、かなりの負担になることは事実でもある。それゆえに、少なくない医療現場で研修医が「放し飼い」とならざるを得ない場合も少なからずあるだろう。