上司から仕事のチャンスをもらうためにはどうすればいいのか。外科医で作家の中山祐次郎さんは「研修医時代、手術で執刀する機会を得るために、どうやったら上司が『中山にやらせてみるか』と思うかを想像して戦略を練った。上司に媚を売っておもねるやり方は嫌いだったので、違う方法を選んだ」という――。

※本稿は、中山祐次郎『医者の父が息子に綴る 人生の扉をひらく鍵』(あさま社)の一部を再編集したものです。

医師と看護師の医療チームがオペ
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手術が上手くなるためには、手術をするしかない

今回は、僕がどんな風にして手術の腕を磨いていったかという話をしてみたい。この話は、君がなにも外科医にならなくても役に立つと思う。「戦略」をどう練り、どうステップアップしたかという実話だからだ。

僕は鹿児島大学医学部を卒業し、その春から東京で研修医として働き始めた。最初の1カ月は食道外科という、厳しい外科の中でもっとも忙しいと言われる科で働いた。たぶん、人生で一番しんどい1カ月だった。いつか小説に書いて仕返ししてやろう、なんてことを思う暇もなかったのだ。

こうして僕の医者人生は始まった。厳しい指導ではあったがなんとか外科医としてトップランナーの一人になることができた。

そもそも僕は手先がすごく器用というわけではなかった。クラスで半分よりは上だけど、トップ五人には入らないかな、というくらい。

だけど、「決められた時間内に折り紙を十個折る」みたいなことはとても上手だと思う。

手術が上手くなるためには、手術をするしかない。

でも、手術ができない人には危なくて手術なんかさせられない。

この冗談みたいな無限ループからなんとかして一度飛び出さないと、手術をやらせてもらえるようにはならない。このことに気づいたのは、外科医になってからだった。

だから、どうやったら手術が上手になるのかを自分の頭で考えた。そして、手術が上手な外科医に聞いて回った。その結果、わかったことが三つあった。

「目より手が先に肥えることはない」

まず、たくさん手術を見ること。「目より手が先に肥えることはない」という言葉を聞いた。だからとにかく空いた時間を見つけては手術室に行き、ずっと手術を見た。

かなり集中して見ていたもんだから、15度に設定された涼しい手術室で立って見学しているだけなのに汗だくになったものだ。

同世代で僕より手術を見た人間はいないと思う、それくらい手術を見ていた。見ることで、非言語的な知識が身についた。

たとえば、看護師さんにものをもらう時に言う用語やタイミング、上司のくせや機嫌の上下、手術室全体の雰囲気、など。上司からも「よくわからんがいつも手術を見学している見上げたやつ」という好評価が得られたのはたまたまだったけど。

そして、たくさん勉強すること。人体の構造というのは思ったより複雑で、暗記しなければならない血管や神経がたくさんあった。