「金太郎飴書店」はもう必要とされていない

どんな業態も、何の変化もせず、改革もせず永続的に存続するなんてことはあり得ない。

このことは歴史が証明している。老舗と呼ばれる企業ほど、革新、改革を連続させてきた。イノベーションを起こしてきた。

私たちも自分たちのビジネスを永続的なものにしたいと考えるならば、イノベーションを起こすしかない。勝てるまで起こし続けるしかない。

確かに出版業界は制度疲労を起こしていて、(書店ビューからすれば)改善されるべき点も多々あろう。仕入れ価格も安いに越したことはない。それはそれでうちで話し合っていけば良い(改善はあまり期待できないけれど)。

そんなことよりも、外を見て、自身の強みと顧客の要望をきちんと分析して、自分たちのビジネスを社会や消費者から評価される業態に変えていくイノベーションを起こすことにこそ、エネルギーを使うべきだ。

例えば書店のマージンが30%以上になって、書店の淘汰が一時的に減速したとしても、書店に対する消費者からの評価が変わるわけではない。時代にそぐわなくなった必要とされない「金太郎飴書店」という業態が続くだけであれば、早晩、今と同じ状況になるのは明白だ(マージンを30%以上にしなくていい、と言っているわけではありません。是非お願いします)。

文具から生活便利用品へと拡大成長するアスクル

危機に苦しむ書店が「現状維持」のために内向きの努力をするのではなく、それぞれ新しいイノベーションを起こし、多様な「シン・書店」を誕生させるほうが世のため人のためになり、明るい未来ではないか。

有隣堂はアスクルエージェント(アスクルの正規取扱販売店)であるが、アスクルは当初、文具事務用品の通販事業だった。しかし、文具事務用品を再定義し、今では生活便利快適用品へと取り扱い商品を拡大して成長を続けている。このイノベーションがなければ、時代の変化を先取りした後発事業者に追い越されていたかもしれない。

イノベーションとは少し違うが、有隣堂としてもアスクルエージェントになることは、それに匹敵するくらいの挑戦だった。当時、店頭では定価で文具を販売していたにもかかわらず、ECサイトで、しかも値引きをして売る、というアスクルのビジネスモデルには批判的な社員が多く、エージェントになることについては社内で厳しい意見があった。

写真提供=有隣堂
「アジアで最もすぐれた書店」と呼ばれる台湾の書店「誠品生活」日本橋店は、有隣堂がノウハウを受け継ぎ運営している