日本のアニメは海外でどのように見られているのか。エンタメ社会学者の中山淳雄さんは「調べたところアニメ『呪術廻戦』のファンはアジア、欧米だけでなく世界中にいることがわかった。映画が未公開だったり、グッズが販売されていない国は多く、『呪術廻戦』の世界的人気はまだ始まったばかりといえる」という――。
2023年3月14日、東京で開催された「呪術廻戦展」のプレス内覧会に出席した声優の榎木淳弥
写真=WireImage/ゲッティ/共同通信イメージズ
2023年3月14日、東京で開催された「呪術廻戦展」のプレス内覧会に出席した声優の榎木淳弥

世界中のアニメファン約2000万人の頂点に立った

世界中にいるアニメファン約2000万人が集う「My Anime List」は、アニメ好きのためのWikipediaのような存在だ。

3カ月ごとに60~70本放送される新作アニメのページが新設され、Members(アニメをリストインしている人)、Score(アニメ評価)、Popularity(Members数の歴代ランキング)、Ranked(Scoreの歴代ランキング)の4つがトップに表示される。当然海外のアニメファンのためのサイトであり、すべて英語。

ここはエンタメを研究する私のような立場の人間にとって宝の山だ。6~7割が10~20代の若者世代、5~6割が欧米ユーザー、あとはアジア・南米などで日本人はほんの1%未満、という純粋な「日本人以外のアニメファン」サイトだ。

ネットフリックスや海外における最大級のアニメ配信サイト・クランチロールによって世界中に配信されたアニメをどう受け止めているかのリアリティが、ここにある。

今回は2023年を通して270本の日本アニメの中でもトップ、さらにすべてのテレビ番組での視聴需要の賞であるGlobal TV Demand Awardsでトップとなった“世界の頂点に立った呪術廻戦”を記念して1作品にフォーカスを絞った分析をしてみたい。

すでにコミックは9000万部を突破

改めて「呪術廻戦」とは2018年3月から「週刊少年ジャンプ」に連載されたマンガ作品で、著者の芥見下々あくたみげげは1992年生まれ。26歳でこの大ヒット作をつかむまでに3作の読み切り・連載を書き上げている。

デビュー作となった「神代捜査」(2014年)は「神器」を持つ異能力者“神”に支配された離島を舞台にしたアクションマンガで、「No.9」(2015年)は“入”という怪物を操る「裏人」同士のバトルマンガ、その不思議な力を操る主人公九十九のアクションマンガはジャンプNEXT版とジャンプ本誌版で2つの設定で描かれている。

いずれにしてもホラー好き×異能バトル作品を描き続けた芥見氏のテーマが通底している。2作に次いで、2017年に「ジャンプGIGA」で発表された「東京都立呪術高等専門学校」が今の呪術廻戦につながるものだ。

2018年からジャンプでの連載となった本作だが、7年目となる2024年1月時点ですでにコミックの国内販売累計は9000万部を突破。

この約1億部という水準は、過去80万作といわれる半世紀以上ものマンガ歴史上でもトップ20作のみが達成した数字。それをデビューから10年足らずの30代前半の若手作家がリーチをかけている、という意味でも過去例のなかった事例ではないだろうか。(累計1.5億部の「鬼滅の刃」の吾峠呼世晴氏は1989年生まれ、1億部の「僕のヒーローアカデミア」堀越耕平氏が1986年生まれ)