伸びる余地はまだまだある
映画の興行収入としては、日本以外では米国が3億4500万ドルと全体の6割を占める。データが出ている「18カ国+その他の地域」でシェア95%の世界である。
だが実際のMALにおける「呪術」のファン数と比較してみると、映画の「18カ国+その他の地域」は全体の半分も代表していないのだ。
1万人以上ものファンがいながら映画の収入に反映されていない地域としてはインド、ブラジル、カナダ、ポーランド、インドネシア、フィリピンといったエリアがある。
これらの国は米国に比べても何割といった規模で多くのファンがいながら彼らが購買できる映像や(おそらくは)商品は届けられていない。
これは「余白」を示している。映画は「映画興行市場」の制約があり、配給会社などの仕組みが整っている先進国を中心にしか広がっていかない。しかしMALのようなフリーのファンサイトが本来は何らかの手段でアニメ配信を視聴し、低額もしくは無料ででもその作品に熱心に触れようとしている「余白となる興味関心層の全体像」なのだ。
その意味では初のスマホゲーム版として2023年11月にサイバーエージェントグループから配信された「呪術廻戦 ファントムパレード」の好調と今年はじまるだろう英語版の世界展開でどれほどそうした「余白層」を取り込めるかは次への期待値となる。
日本アニメの快進撃は「まだ始まったばかり」
特にMALのユーザー層はその大半が10代、20代といったZ世代、α世代である。可処分所得も小さいが、その分彼らが浴びるようにマンガやアニメで触れた作品はその後10年、20年たってから急激に商業市場として拡大するポテンシャルを秘めている。
それは誕生から20~50年たってから第2、3世代のブーム再構築で世界的成功をおさめているポケモンやハローキティの事例にみる通りである。
その意味では東南アジア、中南米、南アジア、中央アジア、中東、アフリカといった「すでに人気があるのに商売はできていない」未開のエリアは半世紀先のブルーオーシャンになる可能性を秘めている。
映画の海外興行収入は約127億円だが、その6割は米国である。だが実際のファン数でみてみれば「海外・先進国」の割合は半分にも満たず、「呪術が好きだけれど商売の対象になっていないあと半分がいる」ということを考えると、世界で最も需要があるギネス記録のアニメ作品としてもいまだその海外展開は道半ばと言えるだろう。
こうした実態を調べれば調べるほど、アニメ映像の展開のスピードと広がりに驚嘆するとともに、同時にそれ以外のビジネスがあまりに遅々として進んでいないことへの課題感も浮き彫りになる。
まさにこれがK-POPが10年前に直面した課題であり、K-CONのようなプラットフォームで南米や南アジア、中東やアフリカにまでコンテンツを届けようとしている原点でもある。日本アニメの世界進撃はいまだもって「始まったばかり」なのだ。