全国で34の認可保育園を運営し、児童3000人超を抱えるコビーアンドアソシエイツ(東京都目黒区)では、ホテル総料理長経験者が児童の献立を監修し、園には調理師とキッチンスタジオまでついている。なぜそこまでやるのか。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんが聞いた――。

※本稿は、野地秩嘉『少子化に挑む保育園』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

銀座東急ホテルの元総料理長が監修

保育指針にある「1.保育の内容、2.健康及び安全、3.子育て支援、4.職員の資質向上」のうち、健康と安全に密接に関わるのが毎日の昼食と、おやつである。

働くママたちは午前6時には起きて、子どもに食事を摂らせてから登園する。

しかし、前夜遅くまで仕事をしているママだっている。0歳児、1歳児の子どもを持つママは慢性的に寝不足だから、寝坊をすることだってある。そうすると、子どもに朝ごはんを食べさせる時間はない。

園長や保育士はそういうママたちの状況をわかっている。だから「なぜ、子どもに朝食を食べさせないんだ」と文句は言わない。だからといって認可園では朝食を出すことはできない。出すとなったら、コンビニおにぎりとはいかないので、職員は午前6時に登園してこなくてはならない。やれることはおなかを空かせた子どもたちに栄養のある昼ごはんを食べさせること。

コビーでは独自のスタイルで手づくりの昼食とおやつを出している。委託した業者がつくったものではなく、園にいる栄養士が毎日、つくる。栄養を考え、カロリーを計算し、そのうえで旬の素材を使った料理を出す。

メニューの監修は総料理長の三枝清知が行う。銀座東急ホテル総料理長だった三枝は調理部門と現場の保育士と毎月、会議を行い、新メニューを含む献立を決める。

コビーアンドアソシエイツが園児に提供するロールケーキ
写真提供=コビーアンドアソシエイツ
コビーアンドアソシエイツが園児に提供するロールケーキ。月に一度献立会議を開き、料理5品+おやつ5品の新メニューを開発している

ラタトゥイユとカッペリーニの冷製、ジュリエンヌスープ…

さらに、コビーの園では調理室が保育室のすぐ隣にある。「コビーキッチンスタジオ」と名付けたそれで、保育室にいる子どもたちはガラス越しに調理の様子を眺めることができる。調理師たちもまた子どもたちがごくんとつばを飲み込む音を感じながら調理をする。

子どもたちはつくっている様子、流れてくるにおいをかいで、「今日はカレーだ」と楽しみにする。低年齢の子どものなかにはほとんど食べない子、残してしまう子がいる。だが、コビーではキッチンスタジオ、メニュー構成など「食べてもらう演出」をしているから料理を残す子どもは少ない。

ちなみに、わたし自身も試食させてもらった。食べたのは7月である。

ラタトゥイユとカッペリーニの冷製、ささみのチーズ焼き、コーンサラダ、ジュリエンヌスープ、パイン。おやつはホワイトチョコとライムのレアチーズケーキと牛乳。

ジュリエンヌとはフランス語で「女性の髪のように細い千切り」の意味。野菜を千切りにしてコンソメで煮たスープだ。そんなもの、生まれて初めて食べた。おそらく今後食べることはないだろう。