誰もが判る「林檎の絵」とは何か?

林檎を描け! と言ったって誰もが直ぐに林檎だと判る林檎を描く者などほとんど居ないではないか。それに誰もが判る「林檎の絵」とは何か?

「私は林檎を描いた」と言うのは個人の自由だ。林檎をどう描いたか? もっと言えば「どう描こうとしているか?」を我々は見る。そこには君たちが世界をどう捉えているか? どう捉えようとしているか? どう考えているか? どう模索しているか? が現れるからだ。

我々は未完成でも小さい発芽でも見落とさないようにしたいと思っている。君たちを試験する我々も試されているはずだ。絵を描くとは、絵を見るとは解釈する事だ。画家の解釈の仕方がさまざまな描き方を生みだしてきた。

今2020年「絵を描きなさい」という出題をどう考えどう解釈するか? 自分の頭で考える。追い詰められてしまった時こそ楽しく考えなければいけない。

「自分の頭で考え描きたい絵を描いて入学する」でなければこの時代に生き残れるはずがない。これが出題意図である。

思考力・観察力・表現力を観る

・面接試験
1 第一次実技試験で描いた、あなたの作品について話して下さい。
2 美術の歴史の中であなたが一番興味を持っていることを教えて下さい。
3 「作品を鑑賞すること」について、どう考えますか?
以上の設問から自身の作品と制作をどのように考えるか、美術・絵画の歴史も含めた多様な表現について、どのように関わっていくか、あるいはその作品に含まれる意味をどのように感じ、どう解釈するかを問うた。

増村岳史『東京藝大美術学部 究極の思考』(クロスメディア・パブリッシング)

以上が2020年度の出題意図ですが、いかがでしょうか? この入試課題の出題意図をまとめると、次のようになります。

①思考力・観察力・表現力を観る
②重要なのは「何を描くか?」ではなく「どう描くか?」
③物事に対する自分なりの価値観を持っているか?
④構想力と構成力を問う
⑤試験する側も試されている

抽象度の高さは、私たち大人でさえ容易に理解しがたいのではないでしょうか。特に令和2年度の2次試験「絵を描きなさい」の出題意図は、まるで禅問答のようです。

これらのように、傾向がまったく見えない、変幻自在な問題が毎年出題されるからこそ、22.5%と非常に低い現役合格率も納得できるでしょう。

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