BYDの業績は伸び悩んでいる

加えて、中国市場においても、激しい値引き合戦の煽りを受け2023年1月~3月期のBYDの純利益はアナリスト予想を大幅に下回る45億7000万元(990億円)にとどまった。

業績は伸び悩み、信頼耐久性に対する疑問も内外から出はじめている。

そんなメーカーを多くの日本メディアが黒船襲来と盛んに持ち上げていることには違和感しかない。

むしろ日本が警戒するべきなのは、BYDが欧州のエンジニアリング会社と組んで高効率エンジンの開発を始めていることだ。

現状でもBYDの販売台数の約半分をプラグインハイブリッド車が占める。

今後ハイブリッド車でも実力を付けてきたら、侮れない競争相手になるだろう。

もはやエンジンなどやっている場合ではない、EV開発に集中しろ、などという無責任な雑音に惑わされず、日本メーカーは自分たちのもっているエンジン技術にさらに磨きをかける必要がある。

「ガラケーからスマホへの転換」のようにはいかない

最後に。誤解なきように言っておくが、私は決してEV否定論者ではない。

乗れば楽しいし快適だしデザインの自由度も高まる。原子力、水力、太陽光、風力といった様々な手段から得られる電気というエネルギーで走れるEVを一定量普及させることは、原油の97%を中東に依存している日本のエネルギー安全保障にも有効だ。

いちばん近いガソリンスタンドが20km先といった地域では、必要最小限のバッテリーを積んだ安価な小型EVが今後受け容れられる可能性も高いだろう。

豪華で速い高級EVも商品としては魅力的だ。

とはいえ、EVの場合、ガラケーからスマホへの転換のようにはいかない。スマホの普及スピードは滅法速かったが、それは政府がスマホに補助金を出したりガラケーの販売を規制したりした結果ではなく、スマホのほうが圧倒的に便利だったからだ。

しかし様々な不便があり、値段も高く補助金頼りの現状のEVにマーケットでの競争を勝ち抜いて世界のメインストリームになる実力はまだ備わっていない。

杉山大志ほか『SDGsエコバブルの終焉』(宝島社)

ここから先は私の予想だが、2035年における日本市場でのEV販売比率は多くて30%、少なくて10%。肌感では15%前後ではないかと考えている。

EVを便利に使うには自宅充電が必須だが、日本で戸建てに住んでいる人は55%にとどまる。共同住宅にも今後充電器の設置が進んでいくだろうから合わせて60%とする。そのうちの半数がEVを選べば30%になるが、それには価格、補助金、航続距離、公共充電インフラ、充電時間といったEVの課題が改善される必要がある。

自宅以外の急速充電器で凌ぐ人が少しだけ加わってもせいぜい15%。まあそのぐらいがいいところなのではないか。

11年後にこの原稿を読み返すのが楽しみだ。

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