あえてターゲット外の商品を置く

「木場店では当初想定に比べ、ベーシック商品よりトレンド商品の動きがいい。ですが、そこに偏りすぎると50代以上の方々にとっては買える物がなくなってしまう。

30~40代をターゲットにしながらも既存客層の50~60代のお客さんにも買っていただける商品を置くようにする。これがGMS衣料品平場のポイントになるかと思っています。

その点でアダストリアが15年前から取り組んできたデータ分析が活きてくると思います。全30ブランドから上がってくる毎日の売れ筋データなども参考に、今何を企画して何を投入すべきかなどを分析してFOUND GOODに最適な商品構成を常に検討しています。

例えば、FOUND GOODで雑貨の構成比を高めたのは、別ブランドにおいて、生活雑貨を年齢関係なく買っていただいたデータがあるからです。」

アダストリアがアパレル業界で伸びてきた一番の理由はここです。

販売データからリアルタイムで売れ行きを分析して次のMD戦略を組み立てていく。このデータ分析力と仮説構築力が優れているから伸びることができたのです。「感性」と「科学」の両面がファッションには必要な時代なのです。

筆者撮影
木場店にて。早めのマークダウンが行われていた。こうした戦略もイトーヨーカ堂とアダストリア共同で行う。

うまくいけば500億円の売り上げに

GMSが「科学」の面で劣っていたというわけではありません。衣料品平場の価格帯は良いところをついていました。しかし商品があまりにもベーシック寄りで高年齢過ぎました。

さまざまな洋服が手に入る時代になったことで、お客さんの目が肥えました。しかし相変わらず効率追求型で大量生産・大量販売の仕組みでまわそうとし過ぎました。顧客の感性に訴えることができなかったのです。

その結果「GMS衣料品平場はセルフ販売で特徴のない商品を大量に陳列して販売する売り場」という印象が根付いてしまいました。これがGMS衣料品平場弱体化の原因です。

しかしこのような課題があるにもかかわらず、GMSの衣料品売り上げは8000億円以上あり、イトーヨーカ堂の衣料品売り上げも1000億円以上あります。

現状、アダストリアはイトーヨーカ堂の衣料品売り場の3割程度を任されていますから、全店で売り場展開したとすれば300億円程度の売り上げが理論上可能です。

イズミはじめ他のGMS平場のプロデュースが広がれば500億円程度の売り上げを見込めることでしょう。これは同社の基幹ブランドであるグローバルワークの売り上げと同規模です。(24年2月期 516億円)

つまりアダストリアの狙いは、「マルチブランド×マルチカテゴリー」戦略によって、あらゆる立地、あらゆる企業、業態と連携し、縮小する市場の中でシェアを確実にとれるアダストリア経済圏を少しずつ作り上げているのです。GMS平場はその意味でもとても重要な売り場なのです。