インターネットでの買い物が急激に普及する中、イトーヨーカドーが売り場再編を進めている。実店舗に足を運んでもらうにはどうすればいいのか。3月にイトーヨーカ堂の社長に就任した山本哲也さんに、立教大学ビジネススクールの田中道昭教授が聞いた――。(前編/全2回)

※本稿は、デジタルシフトタイムズの記事「イトーヨーカドーの未来を左右する、新社長の店舗・組織変革の勝算。」(7月22日公開)を再編集したものです。

イトーヨーカドー 大森店
写真提供=セブン&アイ・ホールディングス
イトーヨーカドー 大森店

イトーヨーカ堂の「商売の原点」

【田中】山本社長は従来から「商売の原点」という言葉をよく使われていますね。イトーヨーカ堂本社には創業者である伊藤雅俊氏の「お客さまは来てくださらないもの、お取引先は売ってくださらないもの、銀行は貸してくださらないもの」という言葉が飾られています。本当に謙虚な言葉だと思いますし、こういうスタンスで商売をやればいろいろなものが刷新されると思います。山本社長の商売の原点に対するこだわりを教えてください。

【山本】イトーヨーカ堂は2020年に創業100年を迎えることができました。創業者であり名誉会長の伊藤雅俊が大切にしていたのが謙虚さ、お客さまや取引先も含めあらゆるステークホルダーに対して嘘をつかないということです。そういった姿勢を持ち続けることがなによりも商売の原点であると。大切にしているのは「信頼と誠実」とよく言っていますが、その上でビジネスをどう組み立てていくか。ここ20~30年は業績が厳しいことから、戦術的なものを中心とした取り組みが多かったと反省しています。

今後4~5年は、もう一度原点である信頼と誠実、嘘をつかない商売、もっといえばお客さまからありがとうといってもらえるような商売に立ち戻っていきます。私たち自身が体制を変えていくことが必要であるという認識を持ちながら、その上で将来に向けてのビジネスをどう組み立てるのかを考えていきたいと思っています。

イトーヨーカ堂社長 山本哲也氏
写真=デジタルシフトタイムズ
イトーヨーカ堂社長 山本哲也氏

99人の従業員ができても1人ができなければ「だめな会社」

【田中】私は名誉会長のご子息であり、セブン&アイ・ホールディングスの常務である伊藤順朗さんとも親しくさせていただいていますが、本当に誠実な方でいらっしゃいますし、山本社長もまさに信頼と誠実を体現されていらっしゃいます。それがイトーヨーカ堂全体の企業文化になっていると思いますが、その中でさらに信頼と誠実を強調されるのは、やはりまだどこか足りないということでしょうか? そして、どのように強化刷新していくのでしょうか?

【山本】日々お客さまからさまざまなクレームをいただくことがあります。その意識がなかったとしてもお客さまから「無視された」とか「ぞんざいな態度をとられた」とかそういった声が上がってくるということは、原点である信頼と誠実の文化がまだまだ浸透しきれていないということです。

私たちの商売は働いている人間が100人いたとして99人がきちんと仕事をやっていても、1人ができていなければお客さまから見ればその店舗、その会社はできていないと捉えられてしまう。全員ができるようになるためには、未来永劫えいごうやり続けないと維持できないと思っています。

立教大学ビジネススクールの田中道昭教授
写真=デジタルシフトタイムズ
立教大学ビジネススクールの田中道昭教授