イランはこれからどうなるのか

――新しい大統領のもとで、今後イランはどう変わると思いますか。

先ほども述べたように大枠では変化はないでしょう。たとえば、ベール不着用が合法になるとか、政治犯が釈放されるとか、検閲制度が廃止されるとか、そういう変化は期待できません。

ある程度の改善が期待できるのは経済と外交の2つです。

今イランでは、保守穏健派だったロウハニ元大統領に近い人物が、ペゼシュキアン大統領のもとで再び入閣する可能性がささやかれています。ロウハニ政権下では一時期かなりインフレが抑制されていた。

外交では、かつて核協議を主導し、経済制裁解除にこぎ着けたザリフ元外相の再登板もあり得るでしょう。仮に彼が外相にならなくても、欧米諸国との関係は今よりよくなる可能性が高い。

イスラエルへの挑発や、周辺諸国に対する軍事的・政治的な介入など、国民に不人気な外交政策にも変化の兆しが見られるかもしれません。日本もそうですが、イラン人の多くは今、政府は軍事や外国支援よりも国内政策に集中すべきと考えていますから。

イラン外交が対話と協調の方向に舵を切れば、通貨リヤルの価値も多少上向くはずです。つまり経済の好循環にもつながっていくわけです。

と、まあここまでは誰でも予想することですが、私は学者でないのをいいことに自由に、というか無責任にいろいろな空想もするわけです(笑)。そのなかで、個人的にはペゼシュキアンとハメネイの関係がどうなっていくのか気になるところですね。

「嘘のようなことが普通に起こる、それがイラン政治」

新大統領が1期4年を全うするころ、現在85歳のハメネイは89歳になっています。すでに相当、健康状態も悪いと言われているので、その前に死亡する可能性も高い。仮にしぶとく生きながらえたとしても、イランの大統領は通常2期8年やりますから、ペゼシュキアンがハメネイ時代最後の大統領となることは、ほぼ確実なわけです。

若宮總『イランの地下世界』(角川新書)

そのとき、彼はどうするのか。何もせず引き続き次の最高指導者に忠誠を誓うだけでしょうか? もちろん、その可能性は大いにあります。

しかし、最高指導者候補と目されていたライシがいなくなった今、誰が次期最高指導者になってもその求心力はハメネイとは比較にならないほど弱いものとなるはずです。

その権力の空白を狙って大規模な反体制デモや、革命防衛隊によるクーデターなどが起きないとも限らない。ペゼシュキアンが今後ハメネイとあまりにべったりの関係を築いてしまうと、そのとき彼の立場は著しく不利になります。

一方、そのあたりのことまで考え、国民を含めた全方位と絶妙な距離感を保てれば、大きな変革のなかで彼がキャスティング・ボートを握る可能性もある。

ペゼシュキアンがハメネイの死とともに政治的に葬られるのか、あるいは逆にそれを利用してのし上がるのか。これは見ものだと思いますが、どうでしょう?

もちろんすべては彼がハメネイより長生きすることが前提ですけどね。誰も予想すらしていなかった嘘のようなことが普通に起こる、それがイラン政治ですから(笑)。

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