睡眠障害の悪循環で膨らむ「睡眠負債」

睡眠は、脳が活発に働くレム睡眠と、脳が休息状態にあるノンレム睡眠で構成されています。眠りにつくと、まず深いノンレム睡眠が現れ、その後レム睡眠が現れます。レム=REMとは、Rapid Eye Movementの略で、レム睡眠の際に、寝ている人の眼球が急速に動いていることを示します。そのサイクルは人によって違いますが、およそ約90~120分の周期で繰り返され、朝に向けて徐々に浅いノンレム睡眠が増えていきます。高齢になると深い眠りが減り、中途覚醒が増えてきます。認知症の人では睡眠の質はさらに低下します。

日中の活動を通して五感から得られた情報は脳に一時的に記録されます。夜、眠りに入ってノンレム睡眠時に脳を休ませ、レム睡眠時になると、日中に記録された情報は編集され、脳に保存されます。人は、この間に夢を見ているのです。日本国内で動物を使って行われた最近の研究で、レム睡眠中に大脳皮質の毛細血管への赤血球の流入量が大幅に増え、脳がリフレッシュされることがわかってきました。レム睡眠は人の記憶にとって重要な要素で、レム睡眠が不足すると認知機能が低下し、認知症の発症につながります。実際、認知症患者ではレム睡眠が減少していることが確認されています。

人の体は、体内時計の働きで、夜眠くなり、朝目が覚める仕組みになっています。体内時計に合わせてメラトニンというホルモンが脳の松果体から分泌されて体に時間情報を伝えます。メラトニンは、夜間に多く分泌されます。体内時計は、昼間は明るい所で体を動かし、夜は暗い所で体を休めるという環境で正しく働きます。アルツハイマー病では体内時計の機能が低下して、睡眠と覚醒の切り替えがむずかしくなります。病気が進行すると、夜間の不眠、昼間の過眠が目立つようになり、やがて昼夜が逆転します。

質のよい睡眠のためには自律神経のバランスが重要です。日中は交感神経が優位となって、脈拍、血圧が上昇し活動的になります。副交感神経が優位になる夜間は脈拍、血圧が低下し、心身が休まります。質のよい睡眠を取って朝を迎えると、スムーズに交感神経に切り替わります。中途覚醒を繰り返したりして睡眠の質が低下すると、朝目が覚めにくく、気分もスッキリしません。副交感神経と交感神経の切り替えがはっきりしないまま、日中をだらだらと過ごすと、今度は夜になっても交感神経の刺激で心身の興奮がおさまらず、睡眠の質が低下します。繰り返す睡眠障害は悪循環を生み「睡眠負債」は膨らんでいきます。