質の良い睡眠をとるにはどうすればいいか。日本睡眠学会理事で医師の櫻井武さんは「睡眠の質は、夕食以降に浴びる光の量に大きく左右される。光の影響を少しでも防ぐためには、夕方以降は睡眠に向けた“助走”だと認識することが大切だ。夕飯時の照明を落としてみたり、スマホやパソコンのモニターもできるだけ見てはいけない。どうしても見なくてはいけないのであれば暗めに設定するといい」という――。

※本稿は、櫻井武『すぐに実践したくなる すごく使える睡眠学テクニック』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。

夜遅くベッドで電話を使う女性
写真=iStock.com/Tero Vesalainen
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「肌のゴールデンタイム」に根拠はない

「寝る子は育つ」ということわざがありますよね。これは科学的にも正しいです。

ノンレム睡眠のなかでも、深いノンレム睡眠(N3)になると、脳の「下垂体」という器官から「成長ホルモン」が分泌されます。この成長ホルモンは細胞の分裂を促し、骨や筋肉を成長・発達させます。

成長ホルモンは、子ども時代の成長のためだけに働くわけではありません。大人になっても分泌されており、全身の細胞の修復・再生を助けます。新陳代謝だけでなく、疲労回復、免疫機能の維持などの働きもあります。

また、成長ホルモンは「若返りホルモン」とも呼ばれ、肌の新陳代謝を活発にしたり、脂肪を分解したりします。

若返りホルモンには、根拠のない睡眠神話があります。「肌のゴールデンタイム」という言葉を聞いたことはありませんか?

「美容に影響を与える成長ホルモンの分泌は、午後10時から午前2時までで、その時間帯に睡眠をとろう」というものです。または「お肌のシンデレラタイム」という表現もあります。これらは科学的な根拠はありません。

たしかに成長ホルモンが寝ている間に分泌されることは間違いありません。ただし、分泌に時間帯は関係ありません。「午後10時から午前2時」という特定の時間帯ではなく、最初の睡眠周期で現れる深いノンレム睡眠(N3)のときに、健康にも肌にも良い成長ホルモンは多く分泌されるのです。