老化のスピードが決まる3大要因とは

顔にシワが増えてきた、階段を上るとすぐに息が上がってしまう……。日常のさまざまなシーンで感じる「老化」は、諦めるしかないと思っていませんか。ところが近年、老化のメカニズムについての研究が進み、120年以上生きることさえ可能になると考える研究者も増えています。世界中の第一線の研究者が集う、健康長寿をテーマにしたハーバード大学のシンポジウムでは、概して「医学の進歩で、ヒトはいずれ150から180歳まで生きられるようになる」という結論になります。

医師・医学博士 根来秀行氏
根来秀行 Hideyuki Negoro 医師・医学博士。東京大学大学院医学系研究科内科学専攻博士課程修了。ハーバード大学医学部客員教授、ソルボンヌ大学医学部客員教授、東京大学客員上級研究員ほか。アンチエイジング研究の第一人者。

とはいえ、医学の力で老化を止めて寿命を延ばすことは、がんなどの深刻な病気を引き起こすリスクが伴うため、すぐに実用化されることはないでしょう。一方、生活習慣を改善することで、細胞内にある「テロメア」という「命の回数券」とも呼ばれる遺伝子の構造を節約し、老化を予防できることがわかりつつあります。テロメアについて、詳しくは後述します。

「大人になってから起こる生理機能の衰えにより、さまざまなストレスに対する適応能力が低下すること」、これが老化の一般的な定義です。たとえば、年を取ると呼吸機能全般が低下して、運動をすればすぐ息が上がるようになり、病気をすれば呼吸器系の疾患が生じやすくなります。さまざまなストレスに適応しにくくなるわけです。

テロメアのムダ遣いにつながる要因は、大きく分けて3つあります。1つ目は、体にかかった負担に対して起こす「炎症」です。「熱くなる」「赤くなる」「はれる」「痛みを伴う」は炎症の「4大兆候」で、ウイルスと闘ったり、病気を治そうとしたりしている証しになります。その炎症で老化細胞との関わりが深いのが「慢性炎症」です。

細胞は慢性炎症で損傷した部分を修復しようと、頻繁に分裂・増殖を繰り返し、その分だけテロメアが短くなって細胞の老化が進み、細胞が構成する組織や臓器も次第に衰えます。慢性炎症は、喫煙や歯周病、閉経などによるホルモン濃度の変化によって起こりますが、特に要注意なのが肥満です。過度な肥満では、全身で軽度な慢性炎症が起きている状態になります。

2つ目は、食事などから摂った余分な糖質が体内のタンパク質などと結びつき、変性・劣化して「AGEs(最終糖化産物)」がつくられる「糖化」です。血糖値が高い状態が続くと体内のAGEs産生量が増えるため、糖尿病の人は注意が必要です。また、糖尿病の人は肥満体型のことが多く、テロメアをよりムダ遣いしやすい状態といえます。

3つ目が「酸化」です。細胞のなかのエネルギー産生工場であるミトコンドリアの働きが低下すると、フリーラジカルを多く出します。すべての物質は「原子」から成り立っており、原子がいくつか結合したものが「分子」です。通常、分子のなかの電子は2個が1ペアとなって安定しています。ところが、フリーラジカルは電子が1つしかなく、他の安定した分子から電子を奪おうとします。その作用が酸化です。

もともと体内には、酸化を抑える「抗酸化物質」があり、その働きを「抗酸化作用」といいます。しかし、抗酸化作用は不規則な生活や加齢で低下します。20代の抗酸化作用を100としたら、40代は半分、60代では4分の1以下です。酸化が優性になった状態が「酸化ストレス」で、細胞は傷つきやすくなり、テロメアのムダ遣いにつながります。