院内業務の分業が徹底されている
外来と手術のスケジューリングも、カレンダーアプリを使って秘書が管理し、検査オーダーや結果の受け取りも秘書が行う。常勤教授には1人につき1人、専門医には2人につき1人、秘書がつくという。
「専門業務以外の分業は、看護師でも同じです。手術室の清掃や手術道具の消毒を行うのは看護師ではなく、他に専門の人員がいます。手術室から病室に患者を移送するのも、力自慢の専用人員が2、3人いる。院内業務の分業が、医師と看護師以外の多くの人員に担われているのです。そうして雑務を少なくした上で、フランスは外来も手術も入院中の診察も、完全当番制で行います」
いわゆる「チーム医療」と呼ばれるものだ。フランスでも執刀担当医はもちろんいるが、同じ医師が術後にも主治医として病棟を回診するとは限らない。回診は主に研修医が担い、「今週は君が3階病棟、来週は5階病棟の担当ね」と週替わり・入れ替わりで当番を割り振られる。患者側もそれを分かっているので、特定の執刀医を求める人はあまりいない。
「教授クラスの外科医になると『この先生に執刀してもらうために』と病院を選ぶ方も多く、回診中に『教授と話したい』との要望を受けることもあります。ですがそれも『教授は今多忙なので伝言しますよ』と言えば、深追いされることはほぼないです」
治療のゴールについては当番制でも大きな違いを感じない
土日の当直も完全当番制で、専門医と研修医がコンビで担当。まず研修医が診察し、手術が必要であれば専門医が執刀、難しいケースは教授に連絡が行くが、それも電話の指示程度で、教授が当直に来ることは珍しい。
「日本は主治医が診察から執刀、手術後の回診も担う担当医制ですね。私もその中で学び経験を積んでいるので、治療の継続性やカルテの引き継ぎなどで担当医制の良さは実感しています。が、治療のゴールという点では、当番制もそこまで大きな違いは感じません」
もう一つの大きな違いとして、アツシさんは集約化を挙げる。
「たとえばパリ圏では、重篤なケースの救急対応を6つの大学病院で日替わり輪番する連携体制『グランド・ギャルド(大当直)』があり、救急対応も集約化しています。各病院は6日に一度の担当日の当直日に人員を多く配置し、時間体制で救急車を受け入れる一方、残りの5日間の当直はより少ない人員配置で回せる。集約化は医療アクセスの距離が伸びる面もあるので、良いことばかりではありませんが、医療側としては余力を作れる方法です」