職務と責任の範囲が明確に定められている
「そのように考えて仕事ができるのは、この国では看護師の職務と責任の範囲が明確に定められているからだと思います。フランスの医療体制は分業制で、看護師の仕事は『看護』です。患者さんを一番近くで継続して見ていますが、診察や治療、検査は医師や技師の担当ですから、手を出しません。そこは分業ですし、契約の際の『職務表』にもそう書かれています」
その表には、「これ以外はしない」という、看護師の仕事の範囲が定められている。範囲外の業務は看護師の知識や職能では責任が持てないので、してはならないのだ。これは日本の看護師の働き方と、大きく異なる点だとサトミさんは指摘する。
「私の日本の看護師時代は仕事の範囲がここまで明確ではなく、看護師の業務ではないと感じる仕事も、ボランティア精神でやることが多くありました」
フランスでは、看護師と患者の配置基準も厳格だ。「これ以上の数を担当しては患者を危険に晒すもの」として、絶対厳守される。サトミさんの部署では、看護師1人につき患者4名が最大数。病床自体は最大18床設置できるが、今は看護師が3人なので、12床しか稼働していない。
バックアップの看護師を送り込む「プール部門」
「私立の医療機関なので黒字化は重要ですが、医師も師長も、配置基準を破ることはしません。危険ですから! もし急な病欠などで看護師が休んだ場合は、院内の人員管理部の『プール』部門から、バックアップの看護師が送られてきます」
このプール部門とは、幅広い診療科を担当できる職能豊かな看護師集団で、バックアップのためにある。いわば院内の看護師派遣部署だ。人員不足の管理職がヘルプを出すと翌日には心強い助っ人を送ってくれるシステムで、日本に是非知られてほしいとサトミさんは考えている。
職務範囲を明確に定めて遵守する環境で、フランスの看護師たちは年間5週間の有給休暇を完全に消化している。その調整はかなり前倒して進め、9月の段階で翌年3月の休暇調整をするそうだ。
「長期休暇は同僚達とすり合わせて師長に希望を出し、休暇開始の2カ月前には師長から決定の連絡が来ます。学校の休みの期間は子持ち世帯の休暇が優先になりますが、私の周囲はそれで問題なくいっていますね。私は旅行が生きがいで、旅費の高い学校休みの期間は避けて計画したい。なので子持ちの同僚がいると、お互い様でちょうど良いです」