フランスでは医師も看護師も「年間5週間の休暇」を完全に消化している。なぜ休めるのか。フランス在住のライター髙崎順子さんは「病院側には医療従事者に休暇を取らせることが義務として定められている。フランスの総合病院に勤務する日本人の医師と看護師に話を聞いたところ、『休める働き方』を確保していることが見えてきた」という――。
病院内でミーティング中の医療従事者
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難航する「医師の働き方改革」

長時間労働による心身の健康被害が問題視され、適正な労働時間を守るために進められている「働き方改革」。2019年に関連法が成立・施行され、残業の上限時間の設定や有給休暇の一部取得義務化などの対策が行われている(参考:厚生労働省愛知労働局「働き方改革関連法」の概要)。

医療機関に勤める医師の40%が月80時間以上の残業をしているなど、過労死ラインを超える過重労働が一般化してしまっている医療現場でも、2024年4月より「医師の働き方改革」が始まった。国からの掛け声は大きいが、運用には医療機関によってばらつきがあり、業務の一部を「自己研鑽」と呼び替えて無償残業の悪習を継続する例も見られている。

現場の医師たちの反応は複雑だ。医療専門メディアm3.comの勤務医1000人アンケート(4月16日〜17日実施)では、回答者の21.1%が「働き方改革はよかった」としたが、若い世代の反応は他の世代よりも「よくない」という回答が多かった。

また、医療従事者にヒアリングしてみると「医師は“体力おばけ”が生き残る生存バイアスで作られた世界で、そもそも『休む』という概念がない」「運用は何も変わらず、休めと号令だけかけられている」との声も依然として聞かれる。

医師が夏のバカンスを取得できるフランス

「バカンス大国」として知られるフランスでは、労働法で義務取得とされる年5週間の有給休暇が医師にも適用され、勤務医も開業医も、主に夏の7、8月にまとまった休暇を取得している。看護師や保育士、介護士など、医療福祉をめぐる別業種も同様だ。

同じ業種でも、国によってここまで休暇の取得状況が変わるのはなぜなのだろう? 在仏日本人ライターの筆者は、フランスで多業種の人々に取材し、「休める働き方」の実現に欠かせない制度やノウハウを書籍『休暇のマネジメント 28連休を実現するための仕組みと働き方』(KADOKAWA)にまとめた。

本稿ではこの『休暇のマネジメント』から、医師・看護師に関する箇所を、要約抜粋してご紹介しよう。両者とも、日本で国家資格を取得し働いた後、フランスの総合病院に勤務している日本人だ。

同僚や上司もみな「5週間の年次休暇」を取得している

医師でインタビューに答えてくれたのは、パリ首都圏の公立総合病院で働く脳神経外科医アツシさん。日仏の大学病院間の協定で研修医(レジデント)として派遣されて3年間、実質的には専門医(チーフレジデント)として働いている。大学病院の常勤教授のもとに配置され、当直はなし。週の勤務時間は残業込みで平均55時間ほどで、日本で勤務していた大学病院よりもかなり短い。年次休暇は法定通りの5週間で、同僚や上司もみな、消化しているそうだ。

そのような働き方は、どうやって可能になっているのだろうか。

「まずフランスの勤務医は、とにかく雑務が少ないんです。医師・看護師以外のスタッフとの分業が徹底しています。常勤医になると基本的に、仕事は手術・外来・病棟診察・カンファだけで、それ以外の事務仕事、紹介状や書類関係の書類もすべて秘書が担います」(アツシさん)