休暇取得のための調整は「肩代わりしてはいけない業務」

同僚全員が同じ時期に休暇希望を出して誰も譲らない場合、師長は誰かの予定を変えさせることはなく、代理要員を外部の派遣会社に手配する。その気持ちをありがたく受け取っても、「悪いな」とは感じないのがフランスの看護師たちだ。

「休みは私達の権利ですし、それを行使させるのは管理職の仕事。休暇取得のための調整は、非管理職の私達が肩代わりしてはいけない業務です。私達には代替要員を手配する権限もありませんから」

看護師がバカンスを取ることを悪く思う患者さんには、フランスでは会ったことがない、とサトミさん。むしろ、「しっかり休んできてね」と送り出してくれる。看護師が休養できないと、その余波は自分達に返ってくると知っているからだろう。

空港ターミナルをスーツケースをひいて移動する女性の後ろ姿
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「フランスの非管理職の看護師は、決してお給料は良くないです。ですが年間の勤務日数がこれだけ少ないですから、総合的に見たらこんなものかと思います。医療従事者には休みが必要ですし、日勤と夜勤でワークシェアをしていると理解しています」

医療従事者の健康に配慮しないことは「患者を危険に晒す」

以上見てきたように、フランスでは日本と異なる職業観や働き方で、医師・看護師の「休める働き方」を確保している。しかしこの国でも、医療福祉分野では常に人手不足が懸念されている。それでも休暇の取得が損なわれないのは、「休暇を取らせるのは雇用主の義務」と労働法で定められ、不履行には罰則が設定されているためだ。

「人が足りないから休めない」ではなく、「人が足りなくても休まねばならない」。そしてそのために、仕事のオーガナイズを変えるのが、フランスのやり方と言える。

その背景には、医療従事者に関して「フランスにあって、日本にはない」社会通念が存在する。医療従事者の労務管理を怠りその健康に配慮しないことは、医療の受益者である患者を「危険に晒す行為」に繫がる、との認識だ。

この「危険に晒す行為」は刑法でも定められていて、雇用主には労働法に加え、この点での違反もあり得る。これは保育士や介護士など、社会福祉職にも共通している。保育園のように利用者の生活拠点が家庭にある施設では、8月の1カ月間など決まった期間に施設全体を閉めてしまい、従業員全員に同時に休みを取得させている。