家の中で夫と極力出くわさないようにしている
「彼が家にいる時、何で私、このおじさんと一緒にいるんだろうって思ってしまう」
杉山千紗さん(仮名、46歳)の口から、思わず本音が漏れた。手応えのある仕事に邁進し、転職を経てキャリアアップを続ける杉山さん。機知に富んだエスプリの効いた語り口に、聡明さを感じる女性だ。千沙さんは戸籍上の夫と同居して8年、「離婚し損ねての、今」と自嘲気味に語る。
コロナ禍でお互いがリモート勤務になり、四六時中、家にいるようになった時は、あまりの苦痛に結婚に限界を確信したものの、数年前から母親の介護で夫が基本、実家暮らしとなったため何とか、現状を維持している。
夫はたまに、出社の必要がある時はマンションに帰ってくるが、千紗さんは基本、顔も見なければ、口もきかない。用事があればメールで、「今日、出社するので、7時半までに洗面所を空けてください」などと伝える。食事はとっくの昔からお互い孤食、リビングやキッチン、トイレなど共用部分では極力、出くわさないように相手の行動パターンを読んで生活するのが常だ。
「彼の歯磨きをする音がすごく汚くて、イライラしちゃうので、ホワイトノイズを発生させる装置を買って、彼が家にいる時は必ずつけています。咳をする音とか、リモート会議で喋っている声もうるさいので」
友情結婚のための結婚相談所
一つ屋根の下、ホワイトノイズの力を借りて、千紗さんは夫を極力いないものにして暮らしている。別にこれは、別居直前の夫婦の話ではない。そもそも、最初からこうだった。
千紗さんは自身を「アセクシャル」という、恋愛や性行為などの性愛関係を必要としないセクシャリティの人間だと自覚する。そんな千紗さんが選んだ「結婚」が、恋愛・セックス無しの、通称「友情結婚」だった。相手は、自称ゲイ。30代後半で友情結婚のための結婚相談所「カラーズ」に入会し、本格的に婚活を始めたが、友情結婚の婚活は基本、条件のすり合わせとなる。同居か別居か、子どもが要るか要らないか、外に恋人を作っていいかどうかなどを確認し、お互いに合意できれば成婚に至るという、完全な契約結婚だ。