ドイツで「イスラム帝国樹立」が叫ばれる異様さ
特に現在、彼らは、ドイツがイスラエルを無条件で支援していることに大きな不満を持っており、パレスチナ支援活動が激化している。5月3日、ガザ攻撃停止を求めて行われたはずのハンブルクのデモでは、そのタガが外れ、数千人がドイツにおけるイスラム帝国樹立を熱狂的に叫び始めたため、ドイツ人は驚愕した。
これは、ドイツの国体の崩壊を目指す主張だ。当然、なぜ、このようなデモを認めたのかと、政府に対する批判の声が高くなった。
ただ、禁止したらしたで、彼らの怒りはさらにエスカレートし、イスラムテロなどにつながりかねず、政府も無闇に手をつけられない。こんなことになったのも、ドイツが50年もかかって、膨大な数のイスラム教徒を入れてきた結果だ。今やドイツはユダヤ人にとっても危険な国になってしまった。
それどころか、今後、事態が緊迫し、究極の選択を迫られれば、これまで平和に暮らしてきたアラブ人やトルコ人、そしてその3世や4世も、心がイスラムに傾いていくかもしれない。帰属意識というものは、それほど簡単に変わるものではないからだ。そうなると、ドイツ人のジレンマはますます大きくなるだろう。
電車や郵便がきっちり動くドイツの秩序はもうない
ドイツでは、今や国民の間にさまざまな分断が存在している。外国人とドイツ人の間に流れる不協和音もそうだし、アラブ人とユダヤ人の間の緊張もあれば、国民の貧富の格差も広がっている。また、社民党・緑の党といったグローバリズムを目指す党と、AfDなどドイツの伝統や文化を守ろうとする党の支持者の対立も、不穏なレベルに達している。
私がドイツに渡ったのは40年以上前だが、当時、治安は極めて良く、危ないのは大都会の中央駅の周辺など限られた場所だけだった。当時、私はシュトゥットガルトに住んでいたが、どこで麻薬が取引され、どこに娼婦が立つかなどということは皆が知っていて、近づかなかった。
ついでに言えば、40年前、電車は時刻通り走り、郵便はドイツ国内なら必ず翌日に着いた。しかし今日、麻薬の取引と売春は拡大したが、電車と郵便は、どちらももう、昔のようには機能していない。
音楽会の後、人通りのない暗い道を一人で歩くのが怖い。長い人生、そんな気持ちを持ったことがあまりなかったので、自分でも戸惑う。しかし、変わったのは私ではなく、ドイツだ。もう、元には戻らないのかと思うと、少し悲しい。