長年続く金融業の不調を象徴する存在

経済規模、具体的には米ドル建て名目GDP(国内総生産)で日本を抜き去り、世界三位の経済大国になったドイツ。ドイツに学べというような意見がある一方で、ドイツの経済自体はかなり厳しい状況に置かれている。実際、ドイツの社会は閉塞感、内向き志向を強めている。旧東独における極右政党の台頭も、その流れに位置付けられる。

この頃話題となっているドイツのコメルツ銀行の買収劇においても、そうしたドイツの内向き志向がよく表れている。ドイツの3位の巨大銀行であるコメルツ銀行は、イタリア最大の銀行であるウニクレディトに、買収を持ちかけられている。しかしウニクレディトによる買収に、ドイツのオラフ・ショルツ政権がNOを突きつけたのである。

首相官邸で開かれた閣議に出席するドイツのオラフ・ショルツ首相=2024年9月25日、ベルリン
写真=EPA/時事通信フォト
首相官邸で開かれた閣議に出席するドイツのオラフ・ショルツ首相=2024年9月25日、ベルリン

ドイツ経済は、長らく製造業が好調な一方で、金融業は不調だった。そして金融業の不調を象徴する存在が、ドイツ銀行とコメルツ銀行だった。コメルツ銀行は海外事業が不振を極めたことで経営不安が生じ、2009年にドイツ政府が公的資金を注入した。2019年にはドイツ銀行との合併話も浮上したが、結局は物別れに終わった。

それ以来、コメルツ銀行の買収先によく浮上したのが、ウニクレディトだった。ウニクレディトは近年、アジア事業の撤退や北米事業の合理化など海外事業の再編を進める一方、ヨーロッパ事業に注力している。また傘下には、ミュンヘンに本拠地を持つヒポ・フェラインス銀行(HVB)を有しており、既に同行を通じてドイツでビジネスを行っている。

財政の健全化に頭を悩ませるショルツ政権は、コメルツ銀行の株式をできるだけ好条件で売却したいところだ。一方で、巨大銀行であるため、買収に名乗りを上げる投資家はそういない。そう考えると、ドイツでビジネスを展開しているウニクレディトによるコメルツ銀行の買収は歓迎すべき事案のようだが、ショルツ政権はそれを拒絶する。

リストラを回避したいショルツ政権の思惑

コメルツ銀行本店
コメルツ銀行本店(写真=Mylius/GFDL-1.2/Wikimedia Commons

ショルツ政権がウニクレディトのコメルツ銀行買収にNOを突きつけた大きな理由の一つに、リストラへの懸念があるとされる。ウニクレディトは2005年にHVBを買収したが、その後リストラを行い、従業員が3分の1にまで減った。とはいえこの中には、事業再編で傘下の別会社に転籍した従業員なども含まれると考えられる。

いずれにせよコメルツ銀行を買収した場合、ウニクレディトはHVBも抱えているため、コメルツ銀行の従業員をある程度は整理するだろう。コメルツ銀行は世界中に約4万2000人の従業員を抱えているが、その大半はドイツだから、1万人規模でドイツ国内の雇用が整理される可能性も否定できない。これをショルツ政権は忌避しているようだ。