ショルツ首相を擁する与党の社会民主党(SPD)は中道左派の政党であり、労働者の権利確保を重視する。ライバル政党である中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)が政権を担っているならともかくとして、SPDが政権を担っている現時点においては、大企業による雇用整理を容認するわけにはいかないという立場であることは確かだろう。
おりしもドイツでは、自動車最大手のフォルクスワーゲン(VW)社が国内で工場を閉鎖し、雇用整理を行うことに対して、ドイツ最大の産業別労組であるIGメタルが数万人規模のデモを行う可能性を示唆するなど、労働界の反発が強まっている。そしてIGメタルに代表される労働界は、ショルツ首相擁するSPDの最大のスポンサーでもある。
ドイツは2025年9月28日に次期総選挙を控えている。主要政党の支持率調査(図表1)に鑑みればSPDの下野は確実な情勢であり、SPDは勝利ではなく、敗北を最小限にとどめるか、どう負けるかという観点から選挙戦に臨まなければならない状況にある。そうした中で、労組の支持まで失うわけにいかないというのがSPDの本音だろう。
そもそも悪化しているドイツの雇用情勢
そもそもドイツの雇用情勢は悪化している。最新8月の失業率は6.0%と3カ月連続で横ばいだったが、この間に失業者は4万人近く増えている(図表2)。4~6月期の実質GDPは前期比0.1%減と再びマイナス成長となるなど、ドイツの景気はスタグフレーション(景気停滞と物価高進の併存)に苛まれるヨーロッパでも不調が際立つ。