機能性だけでなく美しさも同様に求める成熟した文化
インテリアとは、たんなる「飾り」ではなく、日常生活を豊かにするもの。その考え方こそが日常を“極上に”する極意なのだということに思いいたりました。
私がぼんやりとホテルを見て感じていたことを実践して暮らしていたのが、ジム・トンプソンだったのです。
その後、何度か、バンコク市内の優れた住宅を見る機会にも恵まれましたが、どの家も、タイの気候風土にマッチしたデザインやフォルムの家具や工芸品をうまく取り入れ、フォーカル・ポイントを効果的に使って演出していました。
訪れる人を魅了するインテリアは、どれも、その家に住む人たちの個性が表れており、住んでいる人たち自身もそれを楽しんでいることが伝わってくるものでした。
こうして私は「住まい」に、機能性だけでなく美しさも同様に求めるという、成熟した文化があることを実感したのです。
友人宅を訪れると、つい、フォーカル・ポイントを見る癖がついていました。
すると、せっかくの丹精込められたフラワーアレンジメントは目が行かない場所に飾ってあり、ともすると大事な場所に「見せたくないもの」が置いてある、という残念な家がとても多いことに気がつきました。
「インテリアを整えて趣味よく演出することと、ものをしかるべきところに収納することを、セットで考えてみたらどうなるのだろう?」
この模索もやがて、私の設計の基礎になりました。