新たに注力するのは「インナーケア事業」
そこで資生堂が日本事業の立て直しに向けて新たに力を入れているのが、美や健康に関連する栄養素をサプリなどで供与するインナーケア事業です。具体的には、この分野において新たなブランド「シセイドウ・ビューティ・ウエルネス」を立ち上げました。2月には第一弾として、ツムラと連携したタブレットタイプのサプリメント「チューンボーテ」と、カゴメと連携した飲料「ルーティナ」の取り扱いを開始しています。
資生堂が持つ先端美容科学ノウハウをベースに、「チューンボーテ」はツムラが持つ漢方知識である東洋「五臓」の考え方を融合、「ルーティナ」はカゴメの野菜と果実の応用技術を活用して、それぞれ日常的な健康管理目的のサプリメントとドリンク剤として開発しています。
インナーケア事業は25年から中国など海外での展開も検討するなど、この事業にかける意気込みの大きさがうかがい知れるところです。
ただ、この新規事業領域は競争の激しいレッドオーシャンです。サプリ市場は、シェアトップのサントリーウエルネス、2位のファンケル、3位のDHCを合わせても約25%であり、1%以上のシェアを持つ企業が30社以上を数えています。サプリが医薬品ではなく食品として扱われるため参入障壁が低く、新規参入が非常に多いのです。
早期退職募集が始まると、職場の雰囲気は悪くなる
商品の入れ替わりも激しく、一定の支持を得られないものは次々淘汰されていくという状況にあって、資生堂が存在感を確立するのは容易ではないといわざるを得ないでしょう。
また若年層も重要なターゲットであり、ECを含めたオンラインと主要販売マーケットであるドラッグストアというオフラインの、マーケティング・ミックスが不可欠ではないかと筆者は考えます。この点でも、Webやドラッグストアでの存在感が薄い資生堂には、厳しい戦いが強いられるのではとの懸念がつきまとうのです。
このように明るい材料に乏しい現状から、会社の屋台骨である日本事業での改革が断行されたといえます。早期退職者募集の対象は、45歳以上かつ勤続年数20年以上の社員となります。
これは過去の金融危機不況時に筆者がかつての勤務先で経験したものと酷似しています。筆者の経験から申し上げれば、こうした早期退職募集が始まると、職場の雰囲気は著しく悪くなります。組織は生き物であり、一度崩れた社内のムードを立て直すのに時間がかかるのはもちろん、易々と修復できるものでもありません。
内憂外患、苦境にあえぐ資生堂は、かつて圧倒的な存在感で化粧品業界を席巻していた、あの輝きを取り戻せるのでしょうか。現状からは、その道は険しく遠いと感じさせられます。