伊藤忠の「大胆な賃上げ案」にSNSは騒然
大手総合商社(以下大手商社)の伊藤忠商事が、来期に向けて給与体系の見直しを行います。給与水準を大幅に上昇させるという内部資料がX(旧ツイッター)に流出し、ネット上で話題になりました。この資料は、岡藤正広同社代表取締役会長CEO名で出されたもの。日本経済新聞の報道によると、伊藤忠の広報担当者は「内容は事実」と認めた上で、「現在労働組合と交渉中だが、交渉終了時期は不透明」としています。資料には、部長クラスの年収で最高4110万円、担当者クラスでも最高2500万円という、高給取りの大手商社においても突出した水準となる大胆な内容が記載され、ネット上では「どうしてそんな給与が支払えるのか」「うらやましい限り」などといった書き込みが相次ぎました。
大手商社の24年3月期での有価証券報告書による社員の平均年収を見てみると、トップの三菱商事が2090万円(平均年齢42.7歳)、三井物産が1899万円(同42.3歳)、伊藤忠商事は1753万円(同42.3歳)で、伊藤忠はトップ2社にはやや水をあけられています。しかし国税庁の調査によれば、資本金10億円以上の企業の平均年収は652万円(令和5年分)であり、大手商社は軒並みその約3倍前後を支払っている計算になるわけで、一般的に見れば高給取りとしても抜けた存在であることは間違いありません。
「雪だるま式」に利益が膨らむビジネス構造
まず誰もが疑問に思う「大手商社がなぜここまで高い給与を支払えるのか」という点から考えてみましょう。商社と聞くと、資源から部品や製品まで世界中からモノを仕入れてそれを活かしたい企業に売るという、つなぎ役的なビジネススタイルが思い浮かびます。ここで重要なことは、大手商社のビジネスは基本的にBtoBでかつロットの大きい商売なので、自社で在庫を持つことがほとんどない点です。在庫を持てば輸送や保管のコストがかかるわけで、在庫を持たないことは買い手にとっても価格メリットが大きいのです。
さらに最近では、モノの売買ではない事業への投資が大きな収益源になっており、いつの時代も大手商社のビジネスモデルはローコスト運営を基本としていることがわかります。つなぎでモノを売る、事業へ投資するというビジネスでは、工場を建てたり機械を設置したりという設備投資が不要です。しかも基本はBtoBビジネスですから、消費者向けのプロモーション活動をする必要もありません。
先にも触れたように、近年の大手商社は稼いだ利益をM&Aなどの再投資に回すことが多く、投資先からの配当や投資先の売却による利益などが積み増され、雪だるま式に利益が膨らむというビジネス構造にあります。大手商社が世間的に頭抜けて給与が高い背景には、このような事情があるのです。
では大手商社の中で伊藤忠商事は、どのような立ち位置にあるのでしょうか。