「中小企業」時代の価値観や教訓を持ち続けている
即時対応してくれる修理サービスも、それを実現するための人材育成も、大きな時間・労力・コストを要するものだ。「大企業」として、企業規模や店舗網の急拡大を選択しようと考えれば、コスト源として取捨選択で軽視されやすい。しかし、サイクルベースあさひは、街の自転車店としてスタートした当初の「毎日少しでもファンをつくる」意識、そしてプロショップ時代の「自転車はアフターサービスこそ重要」という経験に基づき、「中小企業」の頃に大切にしていた価値観や教訓を持ち続け、店に立つ人の力が発揮するサービスを重視している。
自転車の販売を通じて構築されるお客のデータベースは、次の販売よりも、アフターサービスに主眼を置いて活用している(※9)。自転車の定期点検や、電動アシスト自転車のバッテリー交換などの連絡に加えて、「壊れたら直す」が当たり前の自転車に対する意識を、「壊れる前にメンテナンスで整える」に変えるための取り組みに力を入れている。自転車を買った後の「安心と安全」の提供こそが、他のライバルの追随を許さない、サイクルベースあさひの大きな強みとなっている。
「大企業らしさ」と「中小企業らしさ」でオンリーワンの存在に
サイクルベースあさひは、創業期からの中小企業らしさを捨てずに継承し、大企業らしさの強みと組み合わせることで、街の自転車店以上に気が利いていて安心で、他のライバル店を品揃えとサービスで圧倒し、メンテナンス・修理・中古買取まで自転車のことなら何でも対応してくれるオンリーワンの存在になっている。
この「大企業らしさ」と「中小企業らしさ」を併せ持つことによる成功事例は、大企業病に悩み、創業期の競争力や革新性を失って行き詰まっている多くの日本企業に、1つの現状打開の道を示してくれるものだろう。
【参考資料】
※1 一般財団法人自転車産業振興協会「国内向自転車生産・輸入統計」
※2 あさひ「出退店情報」「2024年2月期 決算説明資料」
※3 C-station「社長が自社にクレームを入れるのが成長のポイント⁉ │あさひ社長インタビュー(前編)」2018年4月11日
※4 ITmediaビジネスオンライン「自転車専門店「サイクルベースあさひ」が好調 “斜陽産業”のイメージ覆して急成長した理由」2022年1月19日
※5 TKCグループ 戦略経営者「製販一体で顧客をつかむ“自転車販売業界のユニクロ”」2011年3月
※6 Kindai Picks「10坪の店から業界最大手に!サイクルベースあさひ下田社長の自転車愛【突撃!近大人社長】」2021年4月21日
※7 日経XTECH「【あさひ】PB商品の拡充で斜陽論一蹴 快走する“自転車のユニクロ”(前編)(後編)」2007年1月10日、「【あさひ】PB商品の拡充で斜陽論一蹴 快走する“自転車のユニクロ”(後編)」2007年1月12日
※8 All About「不毛な価格競争から抜け出すマーケティング戦略」2011年1月31日
※9 C-station「「好き」だから、僕は「2代目」でなく「1.5代目」│あさひ社長インタビュー(後編)」2018年4月12日