同社のメッセージ戦略は、非常に巧みで、それが高成果に寄与した面もある。広報部では、渋谷ヒカリエをつくるにあたって、ライバルの東武電鉄が取り組むスカイツリーを強烈に意識していた。「東武のスカイツリーに対して、東急のヒカリエ」という対決構図を持っていたのだ。それゆえ、メディアに対等に取り上げてもらうためにメッセージの出し方を練ったという。野本社長は、「渋谷を日本一訪れたい街にします」というわかりやすいフレーズをメディア露出のたびに繰り返し、視聴者の脳裏に刻みこんだのだ。

今年9月までに、広告費に換算して約150億円の露出がなされてきたと同社は試算する。矢澤氏によれば、これは、「東急グループにとって、過去最大級の露出だったのは間違いないと思います」とのことだ。非常に稀有なトップセールスと巧みなメッセージ戦略によって、渋谷ヒカリエは、東京観光の一大ホットスポットとして、ゴールデンウイークや夏休みに多くの来場者を集めることができた。「ペイド」の部分については、矢澤氏が「本当に言うのが恥ずかしいぐらいの額」と苦笑するほどの水準だったそうで、その意味では非常に効率よいマーケティング・コミュニケーションがなされたといえる。

また、時代性を反映して、ネット対応にも余念がない。例えば、ShinQsでは、「アフター6フェスタ」というイベントを月1回実施しており、「夜の6時以降にお得ですよ」といったメッセージをメルマガの会員に発信している。その会員数は現在約1万3000人にも上り、会員特典となるお得なクーポンが提供されたり、イベントがあったりということで、有効活用されているという。

さらに、8階のクリエイティブスペース「8/」は、SNSとの親和性が非常に高いという。現在、そこで行われるイベントがツイッターやフェイスブックを通じて情報拡散されている。一般市民が参加できる「8/」のような空間は、渋谷ヒカリエ自体の広告として機能すると同時に、企業と市民との双方向のコミュニケーションを可能にするハブになる。渋谷ヒカリエは、まさに先端的な情報発信、文化発信の基地として機能しつつあるのだ。

(小倉和徳=撮影)
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