自分の敗北をどうしても認められない

この男性は敗北感と向き合おうとせず、乗り越えられなかったように見える。おそらく、学歴では自分のほうが勝っている同期に融資の実績では負けたという現実を受け入れられなかったのだろう。いや、正確にいうと、受け入れたくなかったのかもしれない。自己愛が強いので、自分の敗北をどうしても認められないのだ。

耐え難い現実から目をそむけ続けるには、「本当は負けていない。自分のほうが勝っている点もある」と自分で自分に言い聞かせられるもの、いわば傷ついた自己愛を補強するものが必要になる。

この男性の場合、異動先の部署で実績をあげて見返すことができれば、それに越したことはないのだが、それは無理だった。契約書作成の仕事を彼は見下していて、身が入らなかったのか、パートタイマーや契約社員の女性よりも1日に作成できる書類の数が少なかったからだ。

仕事ができる人は今さら学歴をひけらかさない

そうなると、仕事以外で自分のほうが優れている点をアピールするしかなくなる。だからこそ、この男性は自身の学歴をこれ見よがしにひけらかして相手を見下すようになったのだろう。

盛んに吹聴していた偉い人を知っているという話も、実は出身大学の同窓会で講演した一流企業の社長を間近で見た程度の関係にすぎないと、同じ大学出身の行員が話していた。ちなみに、この行員は現在携わっている業務で成果を出しており、周囲から一目置かれているうえ、上司からも評価されているからか、自らの輝かしい学歴を引き合いに出すことはほとんどないようだ。

くだんの男性に限らず、今パッとしない人ほど過去の成功体験を持ち出すように見受けられる。その最たるものが学歴だ。学歴は主にペーパーテストの点数で決まり、コミュニケーション能力や臨機応変に対応する能力を必ずしも反映しているわけではない。