「本屋は終わった」と思っている人たちを見返したい
ただでさえ書店を成り立たせるのは難しいとされる時代に、無書店地域に本屋を植える――。ロマンはあるが、見通しの立たない話でもある。掛川に植えた高久書店にしても誰もが手放しで賛成できる条件ではない。
私の腑に落ちない思いを見透かしたかのように、高木が話し始めた。
「出版社の人も取次の人も、この業界は終わっているんじゃないかと思っている人が多い。私はね、本屋という商売はもう終わった、と思っている人たちを見返したいんですよ」
高木は静かだが、きっぱりとこう言った。
「本屋は終わってはいないと私は思っています。終わっていないというのは、しっかりと本を売って生活ができるということですよ。書店の後輩たちや本屋をやりたいという後進に対して、本屋が個人の事業として成り立つことを身を以て証明したいと僕は思った」
「そのための戦術は?」
「それは、いかにランニングコストをかけないかということですよ」
高木は上半身をわずかに乗り出した。
「うちを見てもらえればわかるけど、従業員はいません。移動本屋に出るときは、普段は家にいる妻が店番をします。うちの家賃、いくらだと思いますか」
いまの時代、SNSがミニコミ誌に代わる
家賃は駐車場代込みで私が想像した額の実に半分だった。シャッターを下ろした店舗が増えているとはいえ、新幹線の止まる駅から徒歩圏内にあり、地域一の進学校からほど近い路面店としては破格だった。1927(昭和2)年に建てられたこの物件を所有者はもう賃貸にするつもりはなかったが、この地域に書店を開きたいという高木の主旨に共振したのだという。
重要な戦術のひとつとして高木が力説したのはSNSの活用だった。それには書店員時代の成功体験が関わっている。20代で店長を任された際、B4の紙を二つ折りにした4ページ立てのミニコミ誌「書店通信」を毎月発行していた。イベントやフェアの告知と、高木が自ら書いた新刊本や話題書に関する書評を掲載し、書店情報の伝達に努めた。フェイスブックやツイッターが普及してからは、SNSがミニコミ誌に代わった。
SNSを重要視する理由は簡単だ。
「結局、商売というものは単純に言えば、客単価×人数なんです。書店業は、仮に客単価が2000円だとすると、それが一気に4000円になるような商売ではありません。客単価を伸ばせないとなると、いかに来店客数を増やすかが大事です。いくら、いい棚をつくった、新刊をたくさん揃えたと言っても、お客さんを呼べないと意味がないじゃないですか。だから、一人でも多くの人にうちの店に興味を持ってもらうために、お知らせはとても大事です」