東京・荻窪にある独立系書店「本屋 Title」は、中小の出版社が出した「まだ売れていない本」を積極的に扱っている。なぜ「売れている本」から距離を取るのか。全国各地の書店を訪ねたノンフィクションライター三宅玲子さんの著書『本屋のない人生なんて』(光文社)より、一部を紹介する――。(第1回/全3回)
書店に積まれた本
写真=iStock.com/bitterfly
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本をきれいに梱包し、遠方の客に届ける

単行本に文庫本、写真集。ばらばらの判型の本を積み上げると小さな岩のようなかたまりができあがる。岩を厚い段ボール板でぐるりと包み、薄い段ボールで隙間を埋めると本がきれいに覆われた。

これがアマゾンなら、新品の段ボール箱に入れられるだろう。しかし店主は段ボールの端きれを組み合わせて器用に梱包こんぽうしている。よく見ると、端きれは出版社や取次から届く箱を切って延ばしたものだ。不要になった段ボールを分解して使っているのだ。

「ウェブショップで買ってくださる方がすごく多いんです。私も驚いているんですが」

長身の店主、辻山良雄が立つとレジカウンターはいっぱいになってしまう。そこで手を動かす辻山は身を屈めているようにも見える。

「遠方に住まわれているお客様が注文してくださるかと思えば、中央線沿線に暮らしている知人からの注文もあります。オーダーフォームのメッセージ欄に応援の言葉を添えてくださる方もいらっしゃいます」

青梅街道に面した「本屋 Title」

コロナ禍に世の中が覆われた2020(令和2)年3月、閉店時間をそれまでの午後9時から午後7時半に早めたため、店頭の売上は下がった。だが、逆にウェブショップの売上は6倍近く伸びた。おかげで実店舗の売上減を補うことができているという。

その日は、夕方には東京都が新型コロナウイルス緊急事態宣言を発出すると予告されていた。朝、テレビのニュースは緊急事態宣言が今後の生活に及ぼす影響を盛んに言いたてた。東京には見えない緊張が張りつめていた。

荻窪駅に着くとマスクで口許を覆った人たちが入れ違いに改札に吸い込まれて行った。

都心へ向かう通勤者の流れに逆らって荻窪駅から青梅街道を西へと直進し、交差する環状8号線の横断歩道を渡った。道沿いにはマンションと古い商店が軒を連ねる。

片道二車線の青梅街道は新宿から東京の西端青梅市を経由し、山梨県甲府市まで132キロにわたって関東平野を横断する。雑然として忙しい通りなのだが、歩けば、生花店や蕎麦屋など、古くから商売をしている店が目に入る。そして店々の脇を路地に入ると、一転して静かな住宅街が広がる。この青梅街道に面して建つ、もとは精肉店だった商店を改装した古い建物が辻山の経営する「本屋 Title」だった。