クリエイターを守る仕組みが、日本にはなさすぎる
漫画『セクシー田中さん』の実写ドラマをめぐり、原作者の芦原妃名子さんが自殺するという痛ましい出来事は、アメリカの漫画ファンにも衝撃を与えた。
アメリカで人気のSNS「レディット」にファンが立ち上げたスレッドには、彼女の死を嘆くコメントが並んだが、気になったのはこの一言だ。
「日本の漫画業界は過酷だ。女性はなおさら大変だっただろう」
漫画家の彼らが弱い立場に置かれている状況はアメリカのファンの間でも知られ始めている。特に人権や社会正義に敏感なZ世代は、こうした漫画家を心配している。
日本ではドラマの脚本家や放映した日本テレビに批判が集まっているが、問題は作家と脚本家間のトラブルではなく、作家・脚本家双方を守らなかった出版社とテレビ局にあると考える。
というよりも、作家や脚本家といったクリエイターを守る仕組みが、日本にはなさすぎるのだ。
アメリカでももちろん、映画制作会社やテレビ局の持つ力は、原作者に比べて桁違いに大きい。だからこそ原作者が身を守るための仕組みが作られている。
スピンオフ作品の脚本を自ら書いた『ハリー・ポッター』作者
原作者と映画プロデューサー(テレビ局含む)との間の契約には、映像化するにあたって「原作内容の変更が可能」という条項が含まれるのが一般的だ。映像メディアに適合させるためには、ある程度の創造的な再解釈が必要だからだ。
契約の際は、どのような変更ができるかの交渉が行われる。許される変更の範囲や、それに原作者がどのくらい関与するかは、契約によって異なってくる。芦原さんもドラマ化の話が届いた際、「必ずマンガに忠実に」と要望し、原作者が用意したあらすじやセリフは「原則変更しないでいただきたい」と要望していたと主張していた。
時には変更を厳格に制限、または禁止する契約を交渉する原作者もいるが、アメリカでは一般的ではない。
例えば、『ハリー・ポッター』シリーズの著者J.K.ローリング。彼女は映画化にあたっての契約で、重要なクリエイティブ・コントロール=脚本や制作の最終的な決定権を行使する権限を獲得した。そのため原作のストーリーにいくつかの変更はあったものの、キャラクターの一貫性を保つことができたという。またスピンオフ作品『ファンタスティック・ビースト』シリーズでは、自ら脚本も執筆している。
ここまで作家がコントロール権を持つことはアメリカでは珍しい。彼女の影響力の大きさと、ビジョンを守ろうとする強い意志がうかがえる。