脚本家の立場が弱すぎることも大問題だ
『セクシー田中さん』では、脚本家が矢面に立つ形で批判を浴びたが、これもアメリカではまず考えられない。
それは脚本家も守られているからだ。アメリカ脚本家組合「Writers Guild of America(WGA)」の存在である。この組合には1万人以上が加盟している。
アメリカでは昨年、俳優組合が大規模なストを行ったことは日本でもニュースになった。トム・クルーズなどの大物俳優が日本へのプロモーションに来れなくなったことは記憶に新しい。それと同じ時期に148日という長いストを敢行したのが脚本家組合だ。
この2つのストのために、アメリカではほとんどのテレビドラマや映画の制作がストップし、ハリウッドはまひ状態に陥った。
もちろんその間は脚本家も収入がなくなったわけだが、それだけの犠牲を払った成果は大きかった。
最低賃金と報酬を引き上げただけでなく、制作の現場における脚本家チームの立場と、雇用期間に関する条件が改善されたからだ。ドラマシリーズには複数の脚本家が関わることが多いが、ここ数年は予算削減で人数がカットされ、1人あたりの負担が大きくなっただけでなく、雇用期間も短くなり収入が減るなどの問題も生じていた。
また人工知能に関する条項も大きい。脚本家やプロダクションが生成AIを利用することは認めるが、脚本家を排除したり報酬を削減するために制作側がAIを使用することは禁止するという合意も取り付けた。
だから原作への敬意のある作品が生まれる
さらに、日々の仕事において脚本家の権利を守るのも組合の仕事だ。
まず組合は、脚本家と映画プロデューサーやテレビ局との間で、契約に関する業界基準を確立している。これには賃金、支払い、ロイヤルティー、およびクレジットに関連する条件が含まれる。もし組合がなければ、脚本家はこうした契約内容をいちいち自分で交渉して詰めなければならない。そうなるとどうしても雇う側が有利な契約になりがちだ。
組合があるおかげで、小説や漫画から脚本化する際にも公正な取引条件を交渉でき、プロセス全体で彼らの権利が保護される。
また脚本家にサポートとリソースを提供するのも組合だ。これには、契約における法的支援、プロフェッショナルなスキル向上の機会が含まれる。既存の素材を映像に置き換えるという、複雑なプロセスに取り組む脚本家にとって、これらの支援は非常にありがたい。
作家のエージェントや脚本家組合といった、クリエイターの盾となる存在は、彼らを守るだけでなく、作品の品質向上にもなり、結果的に原作素材への敬意にもつながる。