辻山良雄さんは42歳のとき、大手書店チェーンを辞め、東京・荻窪に「本屋 Title」を開いた。書店の閉店が相次ぐなか、なぜ「本を売る」という仕事にこだわっているのか。全国各地の書店を訪ねたノンフィクションライター三宅玲子さんの著書『本屋のない人生なんて』(光文社)より、一部を紹介する――。(第2回/全3回)

1日しか公開されない「毎日のほん」

「本屋 Title」の1日は午前8時に始まる。

「毎日のほん」と題した紹介文がTitleのウェブサイト上で公開されるのだ。予め用意したテキストを定刻にアップするようタイマーでセットしておくのだが、このテキストを辻山は毎朝8時に手動でコピー&ペーストしてツイートする。

ツイッターでつぶやくのは紹介の文章のみで、書名が気になった人はリンクをクリックすればTitleのウェブサイトに移動し、タイトルと著者を知ることができるようになっている。クイズのようなこの仕組みは、おしつけがましくなく、読み手を飽きさせない。「毎日のほん」はその日1日しか公開されず、明日にはまた新しい「毎日のほん」が紹介される。過去の履歴を見ることはできない。

本屋 Titleのウェブサイト。右側に「毎日のほん」を紹介している。3月15日に紹介した本は河合香織さんの『母は死ねない』(筑摩書房)
本屋 Titleのウェブサイト。右側に「毎日のほん」を紹介している。3月15日に紹介した本は河合香織さんの『母は死ねない』(筑摩書房)

私がやりたいのは本を紹介して売ること

紹介する本を前もって選び、文章を書く。それを1年を通して朝8時にツイートする。この「毎日のほん」は一見さりげないようで辻山の仕事への姿勢をもっとも端的に表しているように感じる。「本の紹介」というひと手間を1日も休まず続けることには相応の意思と覚悟が要ると思うのだ。

そう感想を述べたところ、辻山から返ってきたのは「賭けている」という言葉だった。

「『ほぼ毎日のほん』とか『折々のほん』にすれば、1週間に1回とか3日に1回の更新も可能かもしれません。でも、それだと大切なことがぼやけてしまいます。私がやりたいのは、本を紹介して売ることです。そのことがいちばんよく伝わるようにするには、これに賭けているんだということが伝わらなくてはならないと思いました。だから1年365日、欠かさないのです」

365日欠かさずにアップするために、まず辻山は基本の仕組みを整え、一旦始めたら継続する。具体的には、2週間分の本を前もって選び、テキストを準備するということを繰り返し続けてきた。辻山は「決めてしまえば簡単ですよ」と淡々としているが、これを簡単と感じるか、面倒と感じるかに分かれ道がある。