店内に施された「サンダル経済」の仕掛け

そして「客単価×人数」という方程式に基づいて店内はさりげなく仕掛けが施されていた。

2階の屋根裏部屋で絵本の原画展や写真展などの展覧会を企画するが、入場料はとらない。展覧会を見るために10人が来店すれば、そのうち2人は本を購入してくれる。このように、いかに店に足を運んでもらえるかに力点を置く商売のあり方を、高木は「サンダル経済」と呼んだ。近所の人がサンダルをつっ掛けて立ち寄れるような気軽な場所にすることが、商売の肝だというのだ。

サンダルを履いた人の足元
写真=iStock.com/justhavealook
※写真はイメージです

やや凝った仕掛けとして挙げるとすれば「高久書店ほんわか俳句大賞」(2023年から「掛川ほんわか俳句大賞」に名称変更)だろう。

地元のアマチュア写真家が撮影した掛川の風景写真を季節ごとに3枚、合計12枚を掲載した小冊子を200円(現在は300円)で販売する。高校生以下は無料だ。小冊子の末尾には俳句の投稿用紙が付いている。応募者は小冊子を購入し、作品を書き入れた用紙を高久書店はじめ市内3カ所に設置された投句箱に投稿する。

慣れ親しんだ風景の写真をもとに浮かんだ思いを俳句で表現する体験を通して、ささやかな日常の幸福を振り返る機会を分かち合おうという企画だ。掛川市教育委員会と地元紙が後援につき、市内の中学校でも投句に取り組もうという話にもなった。

「俳句大賞」が小さな本屋を知るきっかけに

高木が説明をしている間にもシニアが投句に訪れ、ひとしきり高木としゃべって帰っていった。

「ほんわか俳句大賞の業務にはマージンは発生しません(2022年当時)。小冊子を買われるお客様にはレジのところの貯金箱に代金を直接入れていただき、貯金箱ごと、共同で俳句大賞を運営している読書クラブに渡します。読書クラブというのは掛川で長く続いている、本好きな人たちが集う読書愛好会です。うちからは『高久賞』として1万円の図書カードを出します。その意味では持ち出しをしているといえばそうなんですが」

高木の狙い通り、投句のために初めて高久書店を訪れる人が増えたという。なにより、掛川市民にこの小さな本屋の存在が知られるきっかけになった。

「つまり、本屋は誰でも来て、誰でも楽しめる場所だと知ってもらいたい。そのためには、誰もがいていい、買ってくれなくてもいいから来てよと大きな声で言い続けること、それに尽きるんです」