【原】同時に、多くの人々の考え方も変わりました。動くことがリスクであり、動かないことを良しとする風潮が強まった。これが能登半島地震への皇室の対応にも影響していることは確かです。すぐに現場へ行くことが最善だと考えられていた平成の時代とは大きな違いです。

新型コロナはすでに収束したにもかかわらず、多くの人たちの中でいまだに尾を引いている。政治家は東京という空間に縛られ、政治がますますゆとりを失い、窮屈になる。長い目で見た時にこうした意識が大きな危機につながるのではないかと危惧しています。

撮影=遠藤素子
ゆとりを失った政治はこれからどこに向かうのか

【御厨】そうそう。政治がさらに窮屈になっていくね。政治家は選挙で再選することばかりを考え、日本の将来を考えるゆとりも、余裕もない悪循環だからね。

戦後政治の原点を振り返る重要性

【原】吉田や鳩山など、戦後復興期の日本を担ったリーダーたちは大変だったと思うのですが、今の時代は今の時代なりの大変さ、課題があるわけです。外国を見れば、大統領や首相たちには公式の別荘や自らの別邸があり、日々の政治空間から離れ、静謐な環境で政治と向き合う時間とゆとりがある。今の日本では失われましたが、吉田以降の戦後政治にもそれがあったんです。

原武史『戦後政治と温泉』(中央公論新社)

日本のドメスティックな政治だけを見ていると、「動かないこと=いいこと」と多くの人が思っていますが、もう少し視野を広げて――空間的に、時間的に――もう一度戦後政治の原点から振り返ってみる必要があると思って『戦後政治と温泉』を書きました。今の政治スタイルや政治報道、政治と人々の距離感は最初からそうだったわけではありません。窮屈になった今の政治を相対化する視点をもつための一助として、本書が役に立てばと願っています。岸田さんにも本をお送りしたんで読んでもらいたいですね。

【御厨】そう、じゃあ読んでくれているかもしれないね。「吉田茂のようには笑えないな」と思ってるんじゃないかな。

(構成=奥地維也)
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