政治資金パーティーをめぐる自民党派閥の「裏金問題」で岸田政権が揺れている。なぜ政治とカネの問題が繰り返されるのか。『戦後政治と温泉』(中央公論新社)を書いた政治学者の原武史さんと、東京大学名誉教授の御厨貴さんの対談をお届けする――。(前編/全2回)

なぜ日本の政治家は劣化したのか

――自民党が裏金問題に揺れています。お二人は今の政治をどのように見ていますか。

【御厨貴・東大名誉教授(以下、御厨)】1988年のリクルート事件と同じように、政治とカネが再び大きな問題になりました。当時、一部の自民党議員が離党して新党を立ち上げ、一定の政治改革が進みました。今は政治改革の動きが全く起きそうにない、野党にも期待できない深刻な状況です。

御厨貴・東京大学名誉教授
撮影=遠藤素子
御厨貴・東京大学名誉教授

なぜ自民党はこうなってしまったのか。政治において空間的・時間的な「ゆとり」が失われたことが、今の自民党の凋落をもたらしたのは確かです。

敗戦直後から1960年代までの政治家には確かに「ゆとり」がありました。東京という空間に着目して政治を考えてみると分かりやすい。

例えば、原さんが『戦後政治と温泉』(中央公論新社)で描いたように、彼らは東京の国会や首相官邸(現在の首相公邸)を離れて、箱根や熱海の温泉地に頻繁に通っていました。東京を離れることで何が起きるか。移動中にものを考える、風景が変わって、意見が変わる。旅館で夕飯をとって、アイデアが浮かんでくる――。こうした行為が、自身を客観視させ、政治家としての考えを豊かにしたんですね。

【原武史・放送大学教授(以下、原)】政治家たちの間に「ゆとり」がなくなってきた背景には、「危機管理」の名目で、「有事や災害など、何か重大な問題が起こった時のために、いつも東京にいなければならない」という空気、圧力が強まったことがあると感じています。

対談する政治学者・原武史放送大学教授と御厨教授
撮影=遠藤素子
原武史・放送大学教授(右)と御厨教授