政治資金パーティーをめぐる自民党派閥の「裏金問題」で政治不信が高まっている。日本の政治家はなぜ信用されなくなったのか。『戦後政治と温泉』(中央公論新社)を書いた政治学者の原武史さんと、東京大学名誉教授の御厨貴さんの対談をお届けする――。(後編/全2回)

2泊3日で東京を離れた岸田首相に非難が殺到した

――前半では、いまの政治家が「ゆとり」を失い、東京を離れないようになった弊害を指摘していただきました。安倍元首相はゴルフをするためによく東京を離れていました。

【御厨】いま政治家に許されるのはゴルフがせいぜいだね。安倍さんは在任期間が7年8カ月と長かったため、東京以外の空間活用をだんだんと会得していった政治家だったと思いますね。

御厨教授
撮影=遠藤素子
御厨貴・東京大学名誉教授

特にアメリカのトランプ大統領と関係を築くうえで、ゴルフ場という空間を最大限生かした。デモクラシーの基盤を揺るがした面もあるけれど、安倍外交には一貫性があったと評価できます。相手が中国とどういう関係を持っているのかを見極めながら付き合っていく姿勢です。

そこがボコッと欠けている岸田さんよりもはるかに優れている。なぜか。岸田さんにはしたいことがないからですよ。下から上がってきた政策を見て仕切ることはできるけど、自分が何をしたいか本人も分かっていない。名門派閥・宏池会の第9代会長にしては非常にお粗末です。

【原】岸田さんは2022年8月、伊豆の「三養荘」に3日間滞在しただけで、野党から叩かれた。翌年の夏休みは東京から一歩もでませんでした。世界の政治家と比べても日本の政治家だけが非常に窮屈になっていると感じます。

原武史・放送大学教授
撮影=遠藤素子
原武史・放送大学教授

【御厨】その通りだね。だから「日本をどうするか」という長期的展望が出てこない。目の前の問題に終始するわけですよ。