100万円の箒作りは素材集めだけで3年かかる

実家に戻るや否や、右も左も分からない箒作りにどっぷりと携わることになった高倉社長。長年勉強してきた養豚や農業とは文字通り「畑違い」の仕事に戸惑ったが、父の見様見真似で少しずつ技術を習得していった。

南部箒はどのように作られているのだろうか。

まずは、原材料であるホウキモロコシの栽培から始まる。高倉工芸は1.5ヘクタールの農地でホウキモロコシを育てる。収穫期は例年7月半ばから9月末にかけて。年によってばらつきはあるが400~700キロほど収穫できる。

収穫後、サイズなどでいったん分類し、艶を出すために釜茹でする。それを乾燥させてから再び仕分けする。この工程が肝となる。

具体的には、穂の縮れ、長さ、太さの3基準を設け、それぞれ5段階の品質レベルで選定していく。とにかく穂先の縮れが強いものが高品質。この縮れこそが細かなチリを掻き出す秘密なのだ。100万円の箒には最高級の縮れが使われているため、素材集めだけでも3年はかかったという。なお、ホウキモロコシの縮れに欠かせないのが東北地方特有の「やませ」。この冷たく湿った季節風が良質な縮れを作り上げる。

撮影=プレジデントオンライン編集部
箱の中に大切に保管されていた1本100万円の南部箒
撮影=プレジデントオンライン編集部
最高級のホウキモロコシを使った。強く縮れた素材を集めるだけで3年かかる

仕分けが終わると、そこから一冬かけて職人が編み上げていき、ようやく箒が完成する。

それぞれの工程において相当な手間ひまがかかるが、特に栽培作業は重労働だ。完全無農薬でホウキモロコシを育てるため、畑には雑草がどんどん生えてくるし、作物に虫もつく。それを定期的に取り除かなければならない。しかもホウキモロコシに傷がつかないよう、すべて手作業でやっている。

撮影=プレジデントオンライン編集部
事務所の近くにあるホウキモロコシの畑。刈り取りはスタッフが手作業でおこなう

箒作りを始めた30年前から基本的なやり方は変わっていないが、当初は種まきも手作業で行っていた。

「人の手ほどいい加減なものはないから、いっぱいまいてしまう人もいる。そうすると間引きしなければいけない。えらく金も時間もかかりました」と高倉社長は苦笑する。