ダイソンにも「勝てる」
高倉工芸では現在、年間1000~1500本の箒を生産する。どうやって高価な箒を売っているのか。これについては、百聞は一見にしかず。実演しなければ伝わらないと高倉社長は述べる。
「必ずといっていいほど、『なんでこんなに高いの?』からお客さんとの会話が始まります。そこで、南部箒とよくある安い箒をそれぞれ使って見せると、全然違うねとなります。逆に、ただ置いておくだけではほとんど売れないですよ」
従って、百貨店での展示販売が勝負となる。実際、取材時に筆者も試してみたところ、一般的な箒は穂の部分がスカスカしているのに対して、南部箒は密集度が高いことに驚いた。ササっと掃くだけで絨毯に絡まっている髪の毛などを容易に取ることができるのだ。
人気家電ブランドであるダイソンの掃除機に対しても、高倉社長は「勝つでしょう」と即答する。“敵情視察”のために高倉社長も約10年前、当時6万円ほどするダイソンのコードレス掃除機を購入、使用していた経験からそう断言する。
フローリングの溝に詰まったり、カーペットや絨毯に絡みついた細かなチリやホコリ、髪の毛などを掻き出すことができる点だ。それを可能にしているのが、先述した独特の縮れた穂先なのだという。
「箒、掃除機それぞれに強みはあります。たしかにフローリングの部屋であれば、掃除機を使ったほうが圧倒的に早く効率的に掃除できますが、いくら強力に吸い込んでも目に見えないホコリまでは吸い取れないものもあるんです。例えば、カーペットや絨毯には、小さなホコリやチリが潜り込んでいます。それには南部箒がいちばんです」
取材に同行したダイソンユーザーの編集者もそれを実感しているという。実際に自宅のキッチンマットで南部箒を試したところ、掃除機をかけたマットから髪の毛や食べカス、固まったご飯の粒が次々と出てきた。
縮れた穂先がマットの表面をかき分けて、埋もれたゴミを掻き出せる。これはホームセンターで買った化学繊維の箒でも、吸引力をうたうサイクロン式の掃除機でも味わえない。南部箒と命名する前に、「絨毯箒」と呼ばれていたのもうなずける。
高倉社長がさらに強調するのは、耐久性である。高倉社長が購入したコードレス掃除機は2年半から3年ほどでバッテリー電池が駄目になって、すぐに電池切れするようになった。モーターヘッドや強モードを使用すると、さらに稼働時間は短くなってしまう。